『二・二六事件とその時代 昭和期日本の構造』

筒井清忠
ちくま学芸文庫
ISBN4-480-09017-7
2・26事件を中心に、昭和初期の陸軍や超国家主義思想の動向が書かれた論文集。
一応、2・26事件は(楽観的、非現実的な夢想ではなく)排斥されつつあった皇道派が一発逆転を狙って自身に有利な暫定政権の樹立を目指し行ったものであり、後継内閣を作ろうとすれば反乱軍側の取引材料に使われて反乱軍の実質的な勝利になりかねない、とする木戸幸一の際どい政治的判断によって、それが拒まれた、というのが主要な内容ではあろうが、それ以外にもいろいろ集められたやや雑多な論集。
この主要部分は私としては結構面白かったので、興味があって論集で良ければ、読んでみても良い本だと思う。
論文集なので、全体としてではないが部分的にはやや専門的で分かり難い箇所もあり、丸山真男を読んでいたり、北一輝についてある程度知っている人向けか。
やや専門的な論文集だが、そういうもので良ければ読んでみても、という本だろう。
以下メモ。
北一輝井上日召等、昭和超国家主義者の第一世代は、北が個人主義だと批判を受けたように、近代の洗礼を受け自我と格闘した人々であり、それ故に、それに続く第二世代の青年将校等の支持を引き付けることができたのだ。
社会主義と、戦前の総力戦思想、一君万民主義とは、共に、大量生産・大量伝達・高等教育の普及に伴う社会の平等化、平準化を推し進める思想であり、かつての社会主義者が総動員体制の確立に協力し、敗戦後にまた社会主義者に戻ったのも、この共通軸があったからだろう。この軸においては自由が蔑ろにされがちであったということができる。
石原莞爾に反対して日中戦争を推し進めた武藤章は、日米開戦に慎重な姿勢を取ったが、開戦派を押し止めることはできなかった。
永田鉄山等が長州閥の弊害を訴えて作り、更に若い将校等を加えて結成した一夕会は、軍中央の主要中堅ポストを独占した。
・2・26事件の直後、武藤等の中堅幕僚は、古参の軍事参議官に詰め腹を切らせ、陸軍内のヘゲモニーを握った。