ゴリゴリの左派リベラリストによる正義論

『正義とは何か 現代政治哲学の6つの視点』
神島裕子 著
中公新書
ISBN978-4-12-102505-0
ゴリゴリの左派リベラリストによるロールズ以降の正義論の解説。
そうしたものなので、それでもよければ、という本か。
個人的には、実現不可能な理念がそこまで立派なものなのだろうか、という根源的な疑念が払拭できなかった。
完全に自分の立場から解説しているのに、6つの視点みたいなのもどうかと思う。
ナショナリズムなんか認める気ゼロでしょ。それでナショナリズムの正義論の説明には、多分なっていないんじゃないだろうか。
まあ好きな人にはこれでいいのかもしれない。
それでよければ、という本だろう。

甲陽軍鑑は再評価される傾向にはあるが

『戦う大名行列
乃至政彦 著
ベスト新書
ISBN978-4-584-12575-5
上杉謙信など、戦国大名の軍隊隊列について書かれた本。
軍記ものに依拠しすぎているきらいはあると思うが、それでよければ、という本か。話としては面白かった。
内容的には、先頭から鉄砲、弓、槍、騎兵と並ぶ戦闘陣列は、村上義清から謙信へと受け継がれて大成されたもので、謙信と戦った武田や北条、さらにはその遺臣たちの手によって広まり、江戸時代の大名行列の形になった、というところ。
全体的に、論証や検証については、まだまだこれからという感じではあるが。
戦闘の実際はある程度軍記ものに頼らざるをえない部分もあるのだろうが、結論がひっくり返る可能性はまだまだ大きそうだ。
そうしたものでよければ、という本だろう。

紹介というよりは光秀論

明智光秀 残虐と謀略 一級史料で読み解く』
橋場日月 著
祥伝社新書
ISBN978-4-396-111546-3
明智光秀について書かれた本。
一次史料を軸としたものではあるが、やや思い込みというか思い入れが強く、著者なりの光秀観を描いたもの、と考えておいたほうがよい本か。それでよければ、というもの。
長篠の合戦における鉄砲の役割は最近では軽視される傾向があると思うが、鉄砲の集中運用の発案者を光秀に比定してその武功を顕彰しているのは、屋上屋を架している感じがするとか、秀吉との出世争いとその挫折という描写は本能寺の変とそれを秀吉が打ち破ったことから来る後付の感が強いとか、思い入れは相当強いと思う。
それは、必ずしも間違っているわけではないのかもしれないが、一次史料からだけでは出てこないことは確かであり、一次史料から現れる光秀像を探ろうという本書のテーマとは齟齬をきたしているというべきだろう。
全体として、いい本だとはいえない。
一次史料を中心に紹介した本としては、それはそれで貴重だろうから、そうしたものでかまわなければ、というところか。
それでよければ、という本だろう。

以下メモ。
・光秀には御ツマキという妹がいて、信長の奥の差配をしていた女官だったが、天正九年に亡くなった。彼女が信長と光秀の間を取り持ったことが光秀出世の要因であり、彼女がいなくなったことは光秀の将来に大きな影をもたらしただろう。

『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』

藤井一至 著

光文社新書

ISBN978-4-334-03468-1

土壌についての入門読み物。

土の成り立ちや農業とのかかわりを書いたもので、光文社新書らしい簡便で読みやすい入門書ではあると思う。それでよければ読んでみてもよい本か。

入門書なのであまり深い内容を期待すべきではない。

それよりも読みやすさに力点を置いた入門エッセイ。

読み物としては読みやすくできていると思う。

入門でよければ読んでみてもよい本だろう。

 

以下メモ。

・土というのは、岩石が風化した砂や粘土に動植物の遺骸が混じってできたものであり、定義上、月や火星には存在しない。

・植物や微生物が呼吸して吐いた二酸化炭素が炭酸として染み込み、また有機酸を出してリンなどの栄養素を取り込んだりもするため、土は生命活動に適した状態では酸性に傾きやすい。

『徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか』
早島大祐 著
講談社現代新書
ISBN978-4-06-512902-9
室町時代の徳政令について書かれた本。
基本的には結構面白かった。やや浅い気はするが、興味があるならば読んでみてもよい本か。
浅いというのは、本書に対する違和感がふたつあって、ひとつは階級闘争とか民衆とかいったマルクス主義史観をうまく脱構築できていない感じがすること、もうひとつは個々の事件に対して揺さぶられすぎではないかと思うことで、そのふたつの共通点として考えるに、深くないのではないだろうか。
あるいは著者はマルクス主義者なのかもしれないが、いまどきマルクス史観なんかは先行研究の先行研究を咀嚼せずに持ってきているだけなのだろうし。
それから、近江最南端の甲賀郡と伊勢中央の一志郡では、鈴鹿山脈をはさんでいるとはいえ遠く離れているとはとてもいえないだろう。
そんなこんなだから、しばらく待てばもう少し奥深い解釈が出てくるのではないかという気はするのだが、現状の研究でよければ、こんなものなのか。
そうしたものでよければ、という本。
興味があるならば読んでみてもよい本だろう。

以下メモ。
・幕府法、公家法、寺内法、在地の慣習法などが並列に存在した中世では、訴訟においては自分の利になるものを持ってくるのが当然だった。
・土倉は、元は荘園代官層が預かった年貢の運用先として貸付を行っていた。
・十五世紀の初頭にかけて在地領主が担っていた地域金融が危機に瀕すると、土倉が大きく躍進する。
土倉はこの時期の室町幕府の財源を担うほどになったが、躍進の反動として徳政一揆が起こり、勢力を失った。
幕府は財源不足を補うため、上納によって徳政したり徳政令からの除外を認めた分一徳政令や、借金した兵士層を利するための徳政令を連発するようになった。
頻繁に出される徳政が信用関係を破壊し、貸付が必要な場合に大きなコストを強いるようになったため、中世社会は徳政令を出さない強力な政権を望むようになった。

『今日から使える微分方程式 普及版 例題で身につく理系の必須テクニック』
飽本一裕 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-512904-3
微分方程式の解き方を解説した本。
それなりには面白くて、それなりにはやさしいが、それなりには難しくて、それなり以上のものはない、といった感じの本か。そうしたものでよければ、というところ。
これから微分方程式を使う人がとっかかりとして読むには吉、その予定のない人がどんなものか感じだけでも知っておこうと読むのも吉。
普通の参考書と比べれば文句なくやさしいし、式の展開も丁寧にしてくれるが、それでも分からないところは分からないので、微積分を知らないレベルだと苦しいと思う。
後は、そうしたものでよければ、という本だろう。

フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体』
藤岡換太郎 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-512871-8
フォッサマグナについて書かれた本。
フォッサマグナに関して現状分かっていることのまとめと、フォッサマグナがどのように生成したかについての著者なりの試論が書かれていて、個人的にはとても面白かったが、客観的にはそんなにたいした内容でもないような気がするので、好事家向けの本か。そうしたものでよければ、読んでみてもという本。
中央構造線の南側には三波川変成帯、秩父帯、四万十帯があり、北側には領家変成帯があって、離れていた三波川変成帯と領家変成帯がかつてあったイザナギプレートの北上で接するようになって中央構造線ができた、とか、丹沢地塊は火山岩サンゴ礁石灰岩や島弧の下部で作られた深成岩からできており、かつては伊豆小笠原諸島の一角をなしていたものがフィリピン海プレートの北上で本州にぶつかったものだと考えられる、とか、三枚以上のプレートが接している点のうち三つの海溝が接しているのは、日本海溝伊豆・小笠原海溝と相模トラフが接する房総沖海溝三重点しかない、とか、地学の好きな人には楽しめると思う。
それでよければ、という本だろう。