『陸軍派閥 その発生と軍人相互のダイナミズム』

藤井非三四 著
光人社NF文庫
ISBN978-4-7698-3066-5
帝国陸軍内の細かな人間関係について書かれた本。
陸軍の派閥といえば統制派と皇道派が有名だが、それよりももっと細かい人間関係をあぶりだしたもので、誰と誰が同期とか同郷とか原隊が一緒とか、中学出身で幼年学校出ではない今村均は苦労したとかいう話が主であり、派閥抗争のダイナミズムみたいなものはない。それでよければ、という本か。
陸軍に詳しい人ならそれなりの読み物だが、そうでない人が特にというほどのものはないと思う。
それでもよければ、という本だろう。

『警察官白書』

古野まほろ
新潮社新書
ISBN978-4-10-610770-2
元警察官僚だった作家が警察官のステレオタイプなキャラクターを描いた本。
そう特別でもないが、それなりの読み物。読んでみたければ、という本か。
こういう本ではネグレクトされがちな公安部門についても書かれているし、悪くはないと思う。
後は、特に述べることもない読み物。
読み物でよければ、という本だろう。

以下メモ。
・制服や備品は家に持ち帰れないので、交番勤務の警官も勤務するときにはまず署に出向く。
・犯罪や被害者と日常的に接していくうちに、警察官の考え方は正義の存在を前提としたものに、また、善か悪か、味方か敵か、といったオールオアナッシングな思考になっていきがちである。
・生活安全、刑事、交通、警備といった専務に就くには登用試験をパスする必要がある。
・警部補までは管理職ではないので、職人気質な警官も警部補までは目指す。

『海賊の日本史』

山内譲 著
講談社現代新書
ISBN978-4-06-511961-7
日本史上に現れる海賊の実態を追おうとした本。
よくいえば海賊についての一通りのまとめ、だが、ばらばらの細切れでまとまりはない。一応の歴史読み物にはなっているだろうから、それでよければ、という本か。
推奨すべきポイントは特にはないように思う。
歴史読み物でよければ、というところだろう。

『「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで』

国立がん研究センター研究所 編
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-512093-4
がん研究についての現状のまとめ。
完全に理解するには結構難しめだとは思うが、まとめではあるので、それでよければ、という本か。
DNAや免疫機構などに関して、知らないと背後のメカニズムとかこれ絶対分からないよね、という部分もあるにはあるが、がんの本でそこまで説明もできないのだろうし、知らなければ知らないでそういうものかと流してしまうかもしれない。
後は、現状のまとめでよければ。オプジーボの機序の話とか(がん細胞が免疫細胞から逃れるための分子の働きを阻害するらしい)。
なんとかができれば、みたいながん制圧の夢物語は、今まで幾度となく狼少年で終わってきたわけで、切実な事情がないなら、三年後に現状のまとめを読むか五年後に現状のまとめを読むか、もっといえばがんが実際に治る病気になってからでもいいわけで、今でなければ、本書でなければ、という特別な理由はあまりないように思う。
それでもよければ、という本だろう。

以下メモ。
・がんはいくつもの遺伝子変異が重なって起きるものと考えられ、歳をとった人ほどなりやすいのはそのためでもあろう。
遺伝子変異にはエピジェネティックなものも含む。
・がん患者がどのような遺伝子変異を持っているかを解析すると、喫煙とか感染とかの原因によって特定のパターンを示すようだ。
・様々なストレスによって変性した老化細胞から分泌される物質によって慢性炎症やがん化が促進されることが分かってきた。

『「上から目線」の構造<完全版>』

(榎本博明 著 日経ビジネス人文庫)を40ページで挫折。
小此木啓吾とか岸田秀とかの系列の心理社会読み物で、私はそういったものが大好きなので手を出してみたが、本書は駄目だった。
いいからエビデンス持って来いよ、という感じ。
小此木啓吾とかも今読んだらこんな風に思うのだろうか。
エーリッヒ・フロムは、私の時代でさえオカルト臭く感じたが。
昔ならこれでよかったのかもしれないが、今の時代少々きついのではないかと思った。

『離散数学「ものを分ける理論」 問題解決のアルゴリズムをつくる』

徳田雄洋 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-511756-9
分割してものを分けるときに公平になるような数学的アルゴリズムを探った本。
面白いといえば面白いし、めちゃくちゃに難しいわけではないが、一言でいえばとっつきにくい本か。何をやっているのかなんだかよく分からないというか。それでもよければ、というところ。
分かりやすくはないと思う。数式が出てくると嬉しくて踊りだしたくなるような人なら違うのだろうか。
こういうのを数学的に研究する分野もある、という以上のものはあまりなかった。
それでよければ、という本だろう。

『超予測力 不確実な時代の先を読む10ヵ条』

フィリップ・E・テトロック&ダン・ガードナー 著/土方奈美 訳
ハヤカワ文庫NF
ISBN978-4-15-050522-6
予測に関する大規模実験での成績上位者を分析して正しい予測をするのに必要な考え方を導き出そうとした本。
あまり突飛な内容ではなく、その分すごい結論やコツがあるわけでもないが、興味があるならば読んでみてもよい本か。
地道にコツコツということだわな。
割と地に足のついた地味目な本。
地味ではあるが、いろいろと示唆される部分もあったので、悪くはない本だと思う。
興味があるならば読んでみてもよい本だろう。

以下メモ。
・予測をする能力は経験によって磨くことができる。そのためには検証可能な予測をしなければならない。インフレのリスクがある、などという曖昧な予測では事後の検証が難しい。いついつまでに何%のインフレになる確率が何%ある、などと予測しておけば、予測が当たったか外れたか検証でき、経験としてフィードバックできる。
・当たるか当たらないか五分五分、というような判断はよくない。予測の上手な人はもっと細かい数字を挙げる。60対40と40対60の違い、あるいはさらに細かい違いを認識できるようになるべきだ。
・予測は経験によって伸びるのだから、やり抜く力のある人が伸びる。才能がない能力がないと諦める人より、努力をする人がよりよく予測する。
・事態が変わったり新しい事実が判明したときには、細かく、そして頻繁に予測を修正すべきである。
・予測をするには、内側の詳細を検討する前に、外側の、より一般的な確率を尋ねるのがよい。ある人が殺されるかどうか予測するには、その人が誰にどのくらい恨まれているか考えるより前に、同じような立場の人がどのくらいの確率で殺されているか調べるほうがよりよい予測を立てられる。