『遺伝人類学入門 チンギス・ハンのDNAは何を語るか』

太田博樹 著
ちくま新書
ISBN978-4-480-07138-5
DNAから人類集団の変遷を探求する遺伝人類学についての入門書。
おおよそ標準的な入門書といったところで、入門書でよければという本か。
高校生や大学生くらいの人が遺伝人類学という学問のあり方を知るためにはよい本ではないかと思う。
ただ、本当に入門からという人には懇切丁寧に分かりやすいわけでもなく、知識をアップデートしたい人向けには最新の知見が散りばめられているのでもなく、それ以外の人にはやや中途半端な気はする。
私個人としてはストライクゾーンには入ってこなかった。
そうしたものでよければ、という本だろう。

以下メモ。
・生存に有利な突然変異が生じると、その遺伝子がある箇所の近隣では、生存には中立的な遺伝的多型のうちのひとつがたまたま生存に有利な変異とセットになったことによって広がることがある(ヒッチハイキング)。
自然淘汰による進化が発生したときには、そのため周辺の多型は均質化する。
ヨーロッパなどの牧畜民に出現したラクトース分解酵素が大人になっても強い変異はその例と思われる。

『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』

平川新 著
中公新書
ISBN978-4-12-102481-7
戦国時代末期の日本と、日本周辺に進出してきたヨーロッパ列強との関係を探った本。
大体のところ、関係史ではあるし一側面ではあるが、歴史の本線とまではいえない、といった感じの本だろうか。
そうしたものでよければ、という本。
やや牽強付会な面はあると思う。
どうしてもというほどではない。
それでもよければ、という本だろう。

以下メモ。
・当時アジアにやってきたポルトガル人やスペイン人の少なくとも一部は明征服を簡単にできると考えており、豊臣秀吉もその楽観論の上に立ち、さらにはポルトガル、スペインの先手を取る形で朝鮮に出兵した。
ポルトガル人やスペイン人はこれを見て日本の軍事力を恐れ、秀吉や家康を皇帝、日本を帝国と呼んだ。
・遅れてやってきたオランダとイギリスも、無理な行動はせず、キリスト教布教による浸透を謀るポルトガル、スペインに対抗して、貿易を優先させる姿勢を取った。

『データサイエンス入門』

竹村彰通 著
岩波新書
ISBN978-4-00-431713-5
データサイエンスがどのようなものであるかを軽く紹介した本。
よくいえば、入門の入門。悪くいえば、あまりに表面をなぞっただけで深い中身はない。中学生くらいで本当にまったく何の前提知識のない人にはこれでいいのかもしれないが。そういう、入門教科書でよければ、という本か。
中学校の教科書とかなら確かに面白くはなさそうだが、生徒に読んでもらうためにも少しは面白くしてあるのではないだろうか。少なくとも本書よりは。
本当に何も知らないのだとしても、統計学の本とか情報技術の本とか機械学習の本とか、他を探したほうがいいのではないかと、個人的には思った。

『もうひとつの脳 ニューロンを支配する影の主役「グリア細胞」』

R・ダグラス・フィールズ 著/小西史朗 監訳 小松佳代子 訳
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-502054-8
グリア細胞に関して、現状分かっていることのまとめ。
特別ではないがそれなりの本で、読んでみたければ読んでみても、というものか。
大部の本の割りに、現状のまとめでしかないのですっきりした結論があるのではないが、脳の仕組みはニューロンの結合に拠っているというニューロン中心主義を打破するには、それなりの本ではあろう。
そうしたものでよければ、という本。
いろいろ書いてあって面白いともいえるが、無駄に長いともいえるし、特別というほどではない。
それでもよければ、という本だろう。

以下メモ。
グリア細胞は、睡眠や性行動を制御できることが分かってきた。
脊椎動物ニューロンの軸索にはミリエンがあり、細いままでも速く遠くまで電気信号を伝えることができる。
脳の白質が白いのはミリエンのためだが、その様子によってIQを知ることができる。
ミリエンを形成するグリア細胞は知性や学習に関与しているらしい。
プロのピアニストと一般の人との比較から、ピアニストは運動を制御する大脳皮質部位から軸索が延びる白質神経束のミリエン層が厚いことが分かった。また、ミリエン形成が進行中の幼い時期からピアノを始めた人のほうが、より広範囲にわたって白質構造が増大していた。

『スポーツの現場ではたらく』

小松ゆたか 著
イースト・プレスイースト新書Q
ISBN978-4-7816-8041-5
スポーツドクターをしていた著者が、アスリート以外の人がスポーツの現場で働くとはどういうことか、またそのなり方などを記した本。
割と正面切ってスポーツの現場で働く道を探ったリクルート本だが、別に王道の決まった道はないようで、帯に短し襷に長し、というか、もっと正面からスポーツドクターの四方山エッセイにすればよかったんではないのという気がするが、経験談にしては、自分の経験を全体に波及していて、主語がでかい、という感じもするので、微妙か。
可もなく不可もなくというよりは、可もあり不可もあり、という本。
スポーツドクターの体験エッセイとしては面白い部分もあり、本気でスポーツの現場に飛び込もうとしている人にとっては参考になる部分もきっとなくはない、かもしれない。
薦めるほどではないが読んでみたければ、というところ。
それでもよければ、という本だろう。

『日本の公教育 学力・コスト・民主主義』

中澤渉 著
中公新書
ISBN978-4-12-102477-0
公教育の意義についてまとめた概説。
基本的に護教書なので、護教の概説でよいのなら、という本か。
意義を説いているのだからいいのかもしれないが、こうまで論じる対象に全幅の信頼感を寄せる本というのはどうなのかと個人的には思ってしまった。
公教育に意義がないかもしれないみたいな契機は微塵もない。
ついでにいうと、概説なのであんまり面白くもない。
一応の概説ではあるので、教育学者の少なくとも一人はこう考えているという程度でよければ、というところだろうか。
アクセルべた踏みでよければ、という本だろう。

以下メモ。
・社会科学では実験的な手法は使いにくいので、傾向スコアを用いた分析が注目されている。
 たとえば、通塾の問題でいえば、親の学歴や収入などといった変数から通塾している蓋然性を算出し、同じ確率を持った人の中で通塾している人としていない人を比較すれば、傾向スコアの算出に問題がない限り、理屈上、通塾の影響を取り出せる。

『本当は面白い数学の話』

岡部恒治・本丸諒 著
SBクリエイティブサイエンス・アイ新書
ISBN978-4-7973-9595-2
数学読み物。
最後の微積分のところを除いてはそれなりに楽しい数学読み物だが、微積分の話は相当に駆け足なので、予め知っている人でないとほぼ分からないと思う。
そこまで進めずに中学数学と高校数学の間くらいで止めておけばいいのに、という本。
微積分までバッチリだという人が読むほどのものでもないだろうし。
最後のところはどうせ分からないと諦めて数学読み物として読む手はあるかもしれない。
それでもよければ、という本だろう。