すべて私の意に従え

『戦争体験 一九七〇年への遺書』
安田武
ちくま学芸文庫
ISBN978-4-480-51056-3
学徒出陣させられた著者が、自らの戦争体験が持つ意味について弄んだ本。
現代的な意義は、ないわけではないだろうが、いろいろな点できつい。
一つは、元の文が書かれた1960年前後の状況にどっぷり漬かっているので、現代の読者、現代の視点からでは分かりにくいこと。
もう一つは、著者がどこまでも頑迷であること。
こういう体験をしたからこういうふうに考えるんだ、というのはいいとして、実際には、だからこういう体験をしなかった人もこういうふうに考えなければいけない、という主張が次に来る。
著者に質せば、そんなことは書いていない、どこに書いてあるか、と反論するだろうが、実際問題としてこの本に現代的な意義があるならば、そういうことになるだろう。
同じ経験をしていない人には反論は難しいし、著者は同じ経験をした人に対してさえ、こういう考えをしないのはおかしい、と書いているくらいだから、要するに、すべて私の意に従え、ということにしかならない。
著者の経験やその現代的意義は別にして、それはそれできついと思う。
それでも良ければ、というところだが、特に、というほどではないだろう。

以下メモ
・リースマンは、日本の学生の印象として、自らを非政治的と考える学生でさえアメリカの最も政治的な学生よりも政治的、と言ったらしい。
それは、果たして60年安保のころだったから、だろうか。