『官僚制批判の論理と心理 デモクラシーの友と敵』

野口雅弘 著
中公新書
ISBN978-4-12-102128-1
官僚制に対しては敵対するのではなく、新自由主義と戦うため共に手を携えるべきだ、ということが主張された本。
もう少し細かく言うと、大体以下のような感じ。
近代官僚制に対する批判の大元には、画一された権力を振るう官僚制に対して人間や個人の尊厳の重視を訴えるロマン派的な反発があるが、いかに個人の尊厳を重視しようが、ある程度の大きさの集団になれば、それを運営し維持管理していくには官僚制的なものが必要不可欠である。
官僚制は中立的な形式合理性に立脚しており、形式合理性だけでは権力の正当性を保証できないが、いずれにしても現代においては、市場への介入管理やセーフティネットの構築など、政治的な内容に踏み込んだ判断が官僚制に求められている。
官僚制に対する批判は小さな政府を目指す新自由主義的な立場と親和性が強く、官僚に対する批判は新自由主義へと流れてしまう。
ソビエト共産主義の時代はいざしらず、グローバル化が進む現代では官僚制を強固で画一的で個人に敵対するものとして捉える必然性は薄くなってり、むしろグローバル化に対抗するために、官僚制を強化すべきである。
内容はともかく、主張としてはこんなところか。
こういう政治的なものなので、それでよければ、という本。
しかし、行政学説史的な話なのである程度はしょうがないのだとしても、ここまであからさまに政治的なのは、やや開き直りすぎという感じはある。
おそらくはその政治性の故に、官僚制は民主主義に本当に必要不可欠なのかとか、現代の官僚制に強固な統制への傾向がないといえるのかどうかとか、論証が足りていないような部分も多い。
反面、政治的な部分は分かりやすい。
政治的でない部分はあまり分かりやすくない。政治学の書がしばしば非常に分かりにくいのは、その政治性を糊塗するせいなのだろうか。
個人的には別に薦めるような本ではないが、この政治性がよければ、というところではないかと思う。
そうしたものでよければ、という本だろう。