『生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像』

武村政春
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-502010-4
巨大ウイルスの紹介と、その存在が語ることになった生命像について記述した本。
特別ではないが悪いということはなく、それなりの生物学読み物といえるのではないだろうか。興味があるならば読んでみても、という本。
ただし、進化といっても何十億年も前の話であり、仮説というか、想像の粋は出ない。
前半は巨大ウイルスの紹介で、いろいろとごっちゃになっているという評価もあるかもしれないが、読み物としてはこんなものだと思う。
そうしたものでよければ、という本だろう。

以下メモ。
・ある種のウイルスのDNA複製にかかわる遺伝子はバクテリアアーキアと系統的に異なる可能性があり、そうであればウイルスの起源は生命誕生以前にさかのぼる。
ミトコンドリアでは今でも原始的なスプライシングが行われており、真核生物がスプライシングを行うようになったのはミトコンドリアと共生を始めたときであるだろう。
スプライシングが行われるようになると、スプライシングをする前のRNAからタンパク質が作られてはまずいことになるので、DNAからの転写は別の場所で行われるようになり、細胞核ができた、という説がある。
細胞核の起源は、ウイルスが自分のDNAの複製のために宿主細胞内に作るウイルス工場であったかもしれない。
・ウイルスの本体をウイルス粒子と見る限り、それは不活性で自分では増殖できない、生命の名に値しないものだが、ウイルスの本体を「ウイルス粒子が感染した細胞」(ヴァイロセル)とみなすならば、それは自ら増殖し、ウイルス粒子はそのための生殖細胞のようなものとなる。
・遺伝子はDNAの前にRNAが担っていたと考えられているが、ウイルスと宿主との競合のなかで、より安定的で壊されにくいDNAへの進化が起こったのかもしれない。