『組織は合理的に失敗する 日本陸軍に学ぶ不条理のメカニズム』

菊澤研宗 著
日経ビジネス人文庫
ISBN978-4-532-19511-3
太平洋戦争の日本陸軍をネタに新制度派経済学について書いたビジネス書。
本当はもうちょっと違うかもしれないが、陸軍をネタにしたビジネス書と考えておいて、大過ないだろう。
三百ページを超える割にたいしたことは書いてないと思ったし、あまり良い本でもないと思うが、陸軍をネタにしたビジネス書で良ければ、読んでみても、という本か。
本書で分析に使われる新制度派経済学の諸概念の解説、陸軍の事例研究、まとめ、の三つの部分から成っていて、三回出てくるから分かりやすいといえるかもしれないが、要するに三回同じことが重複して書かれているだけ、という感じは受けた。
最初に諸概念の解説が独立してあるのも、読みやすいとはいえない。
肝心の事例研究も、本当に、ネタにしただけ、という感じで、例えば、ガダルカナルでの敗北について、日本陸軍はそれまでの白兵突撃戦術を捨てれば、過去の投資が無駄になるし、変更に伴う関係者への説得などのコストがかかるから、白兵突撃戦術を取り続けることが合理的だった、と著者は主張している訳だが、それならばそのための分析をしないと、ガダルカナル島での戦闘の経過などをいくら叙述してみたところで、そんな研究はあさっての方向を向いているだけだろう。
(白兵突撃戦術によって勝てる可能性がゼロであれば、白兵突撃戦術を取り続けることは合理的とはいえないだろうから、ガダルカナル島での戦闘経過を分析する必要がない、とはいえないが、別にそういう分析をしている訳ではない)
陸軍をネタにしたビジネス書で二百ページ足らずの読み捨て文庫なら、こんなものかもしれないが、もう少し本格的なものを期待する分には、これでは足りないと思う。
陸軍をネタにしたビジネス書といえばビジネス書なので、それでも良ければ、というところ。
積極的に薦めるほどではないが、それでも良ければ、読んでみても、という本だろう。

メモ1点。
日本陸軍においても、度重なる失敗のため大本営の戦争指導の拙さは認識されており、硫黄島や八原戦略のような抵抗が戦争末期にできたのも、中央集権型組織から現地分権型組織へと日本陸軍が変貌を遂げたからである。