『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』

マーク・ブキャナン 著 水谷淳 訳
ハヤカワ文庫
ISBN978-4-15-050358-1
べき乗則に関する科学読み物。
研究が進めばこういうことも分かってくるかもしれない、という投げっぱなしジャーマンで終わっている点からいっても、複雑系のものにありがちな科学読み物、と考えておいて大過ないと思うが、べき乗則科学史的な意味合いが解説されていて、その点で、良かった。
後は、大体普通の科学読み物。複雑系の科学読み物が好きな人ならこれで良いのだろうし、そうしたもので良ければ、読んでみても、という本だろうか。
ただし、著者は、べき乗則に従う地震は予知できない、と書いていて、それは本書の肝であると思われるのに(べき乗則に従うものは予知できないという一般原則から、人間世界における革命や戦争もべき乗則に従うだろうから、予知できないのでは、という結論を導くのが本書のテーマだろう)、解説子は、地震の大きさが正規分布に従うにしても、地震の大きさを予知することはできない、と書いていて、その点が、よく分からない。
(解説子はもう一つ、スケールフリー・ネットワークでは、繋がっている相手の数の分布はべき乗則に従うが、ハブを調べることによって何が起こるか予知できる場合がある、と指摘している)
著者が間違っているか、解説子がどうでも良い突っ込みを入れているか、あるいは勘違いしているか、それでなければ、私の理解が足りていないかの、多分どれかである。こんな肝心な点で著者が間違っているというのなら、そんな本を薦めることはできないし、私が読んで理解できなかった本を薦めることもない訳で、本書を他人に薦めて良いのかどうか、私にはよく分からない。
複雑系の科学読み物なら他にいくらでもあるだろうから、取り敢えず他から読んでみれば、ということにしておく。