『ヒトはおかしな肉食動物 生き物としての人類を考える』

高橋迪雄 著
講談社+α文庫
ISBN978-4-06-281170-5
他の動物との比較から、生物としてのヒトについていくつかのことが書かれた本。
一応、大体のところは、この手の生物学エッセイとしてはありがちで標準的なもの、という本か。
著者の勤めていた会社を利するポジショントーク的なきらいがなくもない気がするし、平均寿命の考え方が変なのではとか、祖母が娘の子の育児に参加したという仮説が一顧だにされていない(その割りに、最後の結論がそれだったりするのだが)とか、ややどうかという部分もあるが、エッセイとしてはそれなりに読みやすいと思うし、文化のベールを剥いだヒト本来の姿がどのようなものであるかということは、現状では想像に頼らざるを得ない部分がかなり大きいため色々な見方が成り立ち得るだろうから、興味があるのなら悪いという本ではないと思う。
上記の理由から私としては薦めるには少し微妙なところだが、殊更にとどめる程のことでもない。
その他はこの手の生物学エッセイとしてありがちで標準的なものだと思うので、文庫本だから手軽だし、読んでみたければ読んでみても、という本だろう。
以下メモ。
・草食動物とは、消化管内にセルロースを分解するバクテリアを飼っている動物である。従って、ヒトは草食動物ではなく肉食動物である。反芻するウシ等の動物は、バクテリアを消化することで、タンパク源ともしている。ウサギやネズミは、反芻の代わりに糞食によってバクテリアを取り込む。草だけからタンパク質を取ろうとすると、必須アミノ酸を必要量取るためには過食せざるを得ないので、過食した分のエネルギーを消費するために、ハムスターやウマは走り回る。
・体毛が少ないヒトは、熱を放散させやすいので昼間に長時間活動できただろう。現在のアフリカのサバンナでも夜はかなり冷え込むことを鑑みれば、ヒトは、体毛を失ったから服を着るようになった、のではなく、服を着る(ための知能や技術を身に付ける)ようになったから、体毛を失うことができたのだ、と考えられよう。
排卵の後、交尾の有無に関らず黄体相がある動物は、黄体相の間は排卵しないので生殖効率は落ちるが、それによって同時に発情する雌の数を減らし、ハーレムの形成を促していると考えられている。
・ヒトの一夫一婦制は、集団で狩りを行うヒトが群れの中に複数の成熟雄を留めておける制度である。
・授乳期間中は排卵しないので、元々ヒトの雌が子供を産む間隔は四、五年程度であり、ヒトの繁殖力が特に高いということはなかった。授乳期間が短くなったり、母親の労働で哺乳が不安定化したことが、分娩間隔を狭め、ヒトに爆発的な人口増加をもたらした。