『脳研究の最前線 上・下 上:脳の認知と進化 下:脳の疾患と数理』

理化学研究所 脳科学総合研究センター 編
講談社ブルーバックス
上:ISBN978-4-06-257570-6
下:ISBN978-4-06-257571-3
脳科学に関して色々なことが書かれたアンソロジー
理化学研究所脳科学総合研究センターの創立10周年記念出版、ということで、一言でいって、企業レポート、といった感じの本か。つまり、業務で読まねばならないのなら、許せる範囲だが、趣味で読むにはちょっと苦しい、というところ。
アンソロジーなので全部が全部そうだというのではないが、基本的には、一般の読者に読んでもらおう、という契機がない。脳科学について余り知らない人は、本書を読んでもよく分からない部分が多々あると思う。
脳科学についてある程度知っている人が、新しい研究動向を知るためには、それなりのレポート、というところなのだろうか。脳科学についてよく知っている人ならば、最新の研究も知っているのではないか、というのが、苦しいところだが。
あくまで、そういった類の企業レポートでも良い、という人向け。広く一般向けという本ではないだろう。
以下メモ。
大脳基底核は、補足運動野(自発的な運動の場合)や運動前野(刺激に誘発された運動の場合)で生成された運動パターンの中から不適切なものを除く機能を持っていると考えられており、小脳は、実際に行われた運動と目標との差を検出して修正する。
レーニングをつむと、最初は運動前野で作られていた運動パターンが、補足運動野で作られるようになるらしい。
・発生初期の脳の神経回路は魚類でも哺乳類でも大きな違いはないので、爬虫類脳の上に哺乳類脳が付け加えられたというような脳進化の見方は間違っている。
・価値観によって行動が規定される行動プログラムは、皮質・基底核視床神経細胞がループ状に繋がった回路に記憶される。草原型ハタネズミのオスはただ一頭のメスと関係を持つが、皮質・基底核視床ループにそのメスの匂いが記憶されるためらしい。メスの匂いは、バソプレッシンを神経伝達物質とする神経細胞によって内側扁桃体からループの一部である腹側淡蒼球に伝わるが、草原型ハタネズミでは、他の型のハタネズミと比べて腹側淡蒼球のバソプレッシン受容体が強く発現している。
・多くの動物にとって、状況と行為は不可分のものであり、そこには主体を析出する契機は存在しない。ヒトの祖先が道具を手にした時、道具と、道具を動かす手が客体化され、手を動かす主体を想定せざるを得なくなったと考えられる。
・飼育種であるジュウシマツの歌は、その野生種であるコシジロキンパラの歌よりも複雑である。野生種は、種としての特徴を残す必要と、捕食圧から、歌の構造が単純なものに留まるが、メスはより複雑な歌を唄うオスを好む。
・MT野の神経細胞は、視野の一部の視覚刺激の動きの方向に選択的に反応し、MST野の細胞は視野全体が動いた時に反応する。MST野の細胞がMT野細胞から入力を集める時、視野の別々の位置の同じ運動方向に反応する細胞を集めれば、視野全体の直線運動に反応する細胞ができ、放射状に広がった方向に反応する細胞を集めれば、拡大に反応する細胞、同心円の接戦方向に反応する細胞を集めれば、視野の回転に反応する細胞ができるだろう。
・抑制性ニューロン間には、膜電位が直接結び付く電気的シナプスがあり、ニューロンの同期発火に関与していると考えられる。
・受精卵では殆どのDNAがメチル化されていない。その後の発達の段階でメチル化され、その細胞の特徴や、環境との相互作用が記憶されるのではないかと考えられている。