『昆虫−驚異の微小脳』

水波誠 著
中公新書
ISBN4-12-101860-5
昆虫の神経ネットワークに関していくつかのことが書かれた本。
内容的には、主に、視覚等の感覚情報がニューロンのネットワークにおいてどのように処理されているのか、ということが書かれたもので、大体のところ、半専門家向けの雑学本、と考えるのが、最も間違いがないだろうか。
全体的な見取り図として、昆虫の脳と哺乳類(人間)の脳とを比べて考えてみよう、というモチーフがあることは一応確かだが、だからといって別にそうたいした結論があるのでもないし、一般向けの啓蒙書として何かを素人に説明しようという契機も殆ど全くないので、半専門家向けの雑学本、と考えておくのが、無難ではないかと思う。
私としては、これで全く分からないという程難しくはなかったが(ミツバチの不対中央ニューロンに関する実験は、余りよく分からなかった)、これを理解してその先に豊かな果実畑があるのならば良いが、ただの雑学本では、ちょっと勘弁して欲しいなあ、というところではあった。簡単ではない上に、無味な概説がだらだらと続くので、読みやすくはないだろう。
専門誌に掲載されているエッセイとか、そんな感じ。それで良いという人にはそれなりの本なのかもしれないが、一般に薦められるレベルではないと思う。
以下メモ。
完全変態をする昆虫は、成長と繁殖との完全分離を実現しているので、資源の効率的な活用ができる。
・単眼は、細かい画像情報を得ることはできないが、空と大地のコントラストから地平線を検地し、飛翔時の姿勢を制御すること等に使われている。
・嗅細胞の軸索終末は、糸球体という球状の構造を作る。嗅細胞が反応する匂い物質には何通りかのパターンがあるが、ショウジョウバエにおいては、同一の種類の受容体を持つ嗅細胞の軸索が、一つの糸球体に収束している。
・昆虫の学習においては、オクトパミン作動性ニューロンが報酬情報を、ドーパミン作動性ニューロンが罰情報を伝えているらしい。
・ミツバチがダンスによって餌のある場所を伝えていることの最終的な証明は、ロボットのハチを使った実験によってなされた。