『ナツコ 沖縄密貿易の女王』

奥野修司
文春文庫
ISBN978-4-16-771747-6
密貿易の大立者を軸に、密貿易が盛んだった敗戦直後の沖縄の世相状況を描いた本。
当時を知る人物に取材して、その大立者、金城夏子の生涯を追い、彼女が生きた時代を浮かび上がらせたノンフィクションで、ややまとまりがないので、一冊の本としては必ずしも良い出来だとは思わないが、素材そのものが珍しいし面白いので、興味があるならば読んでみても良い本か。
全体的に、やや方向性もなく、何でも詰め込み過ぎであり、もう少し絞れるように思うし、ライターとしては、文章が後一歩、という感じもしないでもないが(一例だけ挙げておくと、「当時は潮風で板戸や柱はささくれ立った家並みが、いかにも漁師の町といった風情を漂わせていた」とか)、絞ったからといって必ず面白くなるというものでもない訳だから、ノンフィクションとしては、こんなもの、といった本ではないだろうか。
後は素材勝負ということになるが、ごく近い時代の一応は日本の話でありながら、余り知られていないことで面白く、素材の面白さも十分に伝えられているだろうから、その点では、良い本ではないかと思う。
ややまとまりはないが、割と面白いノンフィクション。
興味があるならば、読んでみても良い本だろう。
メモ1点。
アメリカ軍が沖縄に基地を建設するにあたって、インフレを防ぐために沖縄で流通していたB円を日本円に対して高く設定した結果、日本から割安の製品が流入して、沖縄経済は生産に不向きとなり、基地依存型の経済となった。