『日本中世に何が起きたか 都市と宗教と「資本主義」』

網野善彦
洋泉社・新書MC
ISBN4-86248-030-6
著者による雑論集。
全体的なテーマのようなものがないという訳では必ずしもないが(テーマについては、大体最後にメモしてあるようなこと)、諸所に発表した論や講演録等を一冊にした本で、余りまとまりはないので、選択に当たっては、雑論集と考えるような本だと思う。
つまり結局は、ファンの人が読むような本。
私は網野善彦の良い読者ではなかったし、日本中世史は私にとって鬼門でもあるので、余りよく分からないが、ファンの人にはそれなりに面白い本なのだろう。
私の感想を一言でいえば、貫徹されていないフランクフルト学派、みたいな感じだろうか。いっていることはフランクフルト学派みたいなのだが、徹頭徹尾そういう主張をしているのではなくて、なんか途中で終わってしまっている感じ。無い物ねだりかもしれないし、雑論集なので元々そういう本でもないのだろうが、一冊の本として評価するには論証も論述も足りないようには思った。
しかしあくまで雑論集で良いのなら、全体的には、可もなく不可もなく。ファンならば読んでみても、という本だろう。
以下メモ。
・古代人にとっては、人とその所有物とは強く結び付いていたから、物を交換することは自分の一部を相手の一部と交換することであり、従って、人々が安心して交易するためには、市が神が介在できるような特別の場所に立てられる等の、自分の一部を相手の一部と交換することにはならないための仕掛けが必要であった。
鎌倉時代に中国に派遣された貿易船が必ず勧進という名目を持っていたように、西国を中心に、中世前半には、商工業や金融にかかわる職業の人は、芸能や技術にかかわる人と同様に、神人、供御人、寄人などとして、天皇や神仏の権威の元でそれに直属するものとして組織化された。
・中国から流入した宋銭が十三世紀頃には社会に広まって、貨幣経済が浸透し、商工業が更に発展すると、神人、供御人のようなシステムは崩れ始め、天皇や神仏の権威が揺らぐようになった。