『ダーウィンの思想 人間と動物のあいだ』

内井惣七
岩波新書
ISBN978-4-00-431202-4
ダーウィンの思想についていくつかのことが書かれた本。
最後は、道徳を進化論的に捉える、というダーウィンが考え始めた問題を現代の知見から論じよう、というところにまで話が飛んでいて、ややまとまりには欠けるきらいがあり、ダーウィン思想のいくつかのトピックスを書いたもの、と考えておいた方が良い本か。そうしたもので良ければ、読んでみても、という本。
私としては、分子進化の中立説は、文字通りの意味では、ダーウィンの主張に反する、と知ったし、ラマルクやウォレス以外にも進化論的な主張をする人がいた、とか、進化論における自然淘汰は因果論的な過程であって、目的論が入る余地はない(キリンの首が長くなったのは首の長い変種が生き延びたからであって、首を長くする目的で長くなったのではない。つまりダーウィン進化論とID説は相容れない)とか、いくつか面白い部分もあったので、悪くはなかった。
まとまりには欠けるし、テーマ的にもやや拡散的。特別という程の本ではないとは思う。
人間を動物とは異なる特別のものとは見なかったという点にダーウィン思想の真髄がある、というのがテーマの一つであるのだろうが、現代日本において、そのテーマがどのような意義を持つのか、という点はよく分からない。単に歴史上の意義ということなら、その背景とか前史とか影響とかを、もっと書かなければならないだろうと思う。
読み物としては、それなりの読み物。
読み物で良ければ読んでみても、という本だろう。

メモ一点。
ダーウィンは、満たされればすぐに治まる食欲等の本能と違って社会的な本能は永続的であり、それ故、他の本能との葛藤で社会的本能が充足されなかった場合、その不満がいつまでも残ると論じた。