入門

『「不確実性」超入門』
田渕直也 著
日経ビジネス人文庫
ISBN978-4-532-24010-3
不確実性に関して書かれた入門ビジネス書。
本当に入門なので、入門で良ければ、という本か。
入門だけにたいしたことは書かれていないが、入門書じゃないとして何が書けるのかというと、本書のように、想定外の不確実な未来に備えよ、としか言えないのだとしたら、本書でいいのかもしれない。
特にというほどの内容はないと思うが、これはこれで、というところか。
入門で良ければ、という本だろう。

通史

『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』
伊藤俊一 著
中公新書
ISBN978-4-12-102662-0
日本における荘園の歴史をまとめた本。
新書サイズのコンパクトなまとめで、そういうので良ければ、という本か。
初、中級者が最初にとっかかりとして読むような感じのもの。
そういうものとしては悪くないだろう。
その分、お勉強感はあり、面白いかっつうと、そこまででもない印象は受けた。
通史だしある程度はしょうがない。
通史的なまとめで良ければ、という本だろう。

以下メモ
・荘園における現地管理人の任命権は荘園所有者にあり、源頼朝が敗者からその職を奪って勝者に与えたことは画期的だった。
・宋銭が普及すると、荘園の年貢を京にいる所有者に銭貨で払うことが多くなった。
銭貨での支払いは、コメとか布とかの定型でない、土地土地にあった作物を作ることにつながったが、京の所有者と現地とのつながりを薄めることにもなった。

保守的社会科学方法論

『経済社会の学び方 健全な懐疑の目を養う』
猪木武徳
中公新書
ISBN978-4-12-102659-0
保守的な立場から書かれた社会科学方法論的なエッセイ。
そうしたもので良ければ、という本か。
健全な懐疑の目を養う、という副題のように、健全な懐疑の目を持つべき事例を紹介したもの、とはいえるが、むしろ、健全な懐疑の目を養え、という著者の主張が書かれたもの、と捉えるべきだろう。
人間の知性は完璧ではない、という意味で穏健な保守思想エッセイであり、人間理性による変革を目指す進歩派にはまた別の思想があるだろうとは思う。
これはこれでそうしたもので、そうしたもので良ければ、という本。
私としては、大学の経済学の試験で蜘蛛の巣理論を説明せよという問題が出て、なんだか全然分からなかったのだが、本書で解答を知れたので、読む価値はあった。
そうしたもので良ければ読んでみてもいい本だろう。

以下メモ
・例えば、ある年にコメが不作で値段が上がったりすると、翌年は作付けが増え、供給が増えて値段が下がるだろう。その次の年には、作付けが減って供給が減り、値段が上がる。
このように、需給曲線から決まるモノの値段は、実際には乱高下しながらクモが巣を作るときのようにグルグルと回る、というモデルを蜘蛛の巣サイクルという。

研究半生記

『イルカと心は通じるか 海獣学者の孤軍奮闘記』
村山司 著
新潮新書
ISBN978-4-10-610923-2
水族館で飼育されているイルカなどを使って認知機能の実験を行っている著者が自らの研究半生を綴った本。
研究者の半生としては、それなりに面白いことをやっておりそれなりに面白く、ただし研究の紹介としてはそこまで突っ込んだ話はない。そうしたもので良ければ、という本か。
一般向けとしてはこれでいいのかもしれない。
そうしたもので良ければ、という本だろう。

ペンローズの量子脳理論的な

『知ってるつもり 無知の科学』
ティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバーグ 著/土方奈美 訳
ハヤカワ文庫NF
ISBN978-4-15-050578-3
ヒトの知性のありようについて書かれた本。
なんというか、専門家が余技で書いたようなというか、ペンローズの量子脳理論とか森嶋通夫非武装中立論とか、そういった類のものか。そういうので良ければ、という本。
全体として、エビデンスは少なめで想像の翼を大きく広げた感じ。
トンデモな印象は受けなかったし、著者らの言うことは正しいかもしれないが、結構な綱渡りはしているだろうし、どこかで跳んではいけない飛躍をしてしまっている可能性は小さくないと思う。
こういうのは、面白いといえば面白いけど、改めて、じゃあどうなの、と聞かれて正面切ってはどうもね、というもの。
それでも良ければ、という本だろう。

以下メモ
・野球でフライを追うときには、ボールと地面との角度が常に最大になる方向に動いていけば、落下地点に到達できる。
(最終的に、ボールは真上から落ちてくる)
ヒトの知性とはこういう処理をしているのだと思われる。
ボールの初速と打ち出し角度から落下地点を計算しているのではない。
・そのような判断を下すための知識は、必ずしも自分の中になくてもよい。
ヒトは、自分が持っている知識とコミュニティの誰かが持っている知識とをシームレスに使えるように思われる。
・ヒトは、他人が何に興味を持っているかに関心を持つ。
赤ちゃんの前で何かを見つめれば、赤ん坊は大人が見つめているものを注視する。
このような志向性をAIにプログラムすることはまだできていない。
自動運転車は安全で快適に素早く目的地に到達したいというヒトの志向を共有することができない。
・大きな発見をした人は偉大な人物だとみなされるが、実際には知識のコミュニティにラストストローを載せている。

動物行動学的な読み物

『本能 遺伝子に刻まれた驚異の知恵』
小原嘉明 著
中公新書
ISBN978-4-121-102656-9
様々な動物の本能的な行動について書かれた動物行動学読み物。
本能についてはおいておいて、そういう動物行動学の読み物で良ければ、という本か。
本能そのものについての議論は、ないとは言わないが、そちらについて期待する本ではないと思う。
現状分かっているのはこの程度まで、ということではあるのかもしれないが。
こっちが期待しすぎなんだろうか。
あくまで動物行動学読み物。
それで良ければ、という本だろう。

以下メモ
カナリアのメスにオスではとても出せない人工音を聞かせると、メスはオスの声よりもこの人工音に強い反応を示した。

視界は広い

刀伊の入寇 平安時代、最大の対外危機』
関幸彦 著
中公新書
ISBN978-4-12-102655-2
刀伊の入寇について書かれた本。
事件を、東アジア史や、中世武家政権へとつながる日本史全体の流れの中で捉えようとしたもので、それはそれで興味深いので、そうしたもので良ければ、という本か。
著者の問題意識はそういう一段高いところにあるのだろうが、こっちは事件そのものもよく知らないのに、という気はしないでもない。
それで良ければというところ。
そうしたもので良ければ、という本だろう。