ほぼ教科書

『はじめての解析学 微分積分から量子力学まで』
原岡喜重 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-513853-3
解析学の初心者向け教科書。
新書一冊に収まっているし数学史を踏まえた構成にもなっているので教科書というより読み物なのだろうが、私の立ち位置くらいからでは教科書との違いはほぼ分からなかった。数学好きか教科書でよければ、という本か。
数学知識のある人には教科書との違いが分かるのかもしれない。
あまり違いがないとすると、教科書のほうが理解しやすいかもしれないが。
なんというか、複素平面から説明されているのは、しょうがないし復習にもなるのだろうが、複素平面を知らない人が理解できるような内容ではないよね、という。
複素平面固有ベクトルヒルベルト空間もエルミート行列も大体同じような熱量でしか説明されていないので、メリハリがない。
複素平面を知らないまま本書を読んで理解できる天才向け、ということなんだろうか。
そうしたもので良ければ、という本だろう。

分かりにくくないかな

『独楽の科学 回転する物体はなぜ倒れないのか?』
山崎詩郎 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-513855-7
コマについて書かれた本。
電子のスピンとかブラックホールとかの名前も出てはくるが、コマに関連した科学読本というよりは本当にコマの科学的特性が書かれたものと考えたほうがいい。それで良ければ読んでみても、という本か。
説明は、分かりにくいような気がするが。
少なくとも、図の説明があまり有効になされていないと思う。
そんなに難しいことが書かれているわけではないからこれで問題にはならないかもしれないが、中高生とかには分かりにくいのではないだろうか。
それ以外は、コマについて正面から書かれた部分など、興味深くはあった。
そうしたもので良ければ、という本だろう。

以下メモ。
・回転軸が傾いたとき、重力から斜めに引っ張られることによって、回転との相互作用から歳差運動が生じる。
コマは歳差運動の回転の方向に回転している。
・コマと地面との接地点は、点ではなく丸くなっているので、歳差運動とは違う方向に摩擦力が働き、コマは立ち上がる。
・水平方向に回転していたジャイロホイールを横に倒すと、水平方向の角運動量が減るので、角運動量保存の法則に従ってジャイロホールを持っている人に水平方向に回転する力がかかる。

雑多なまとめ

『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』
おおたとしまさ 著
新潮新書
ISBN978-4-10-610784-9
受験や進学に関していろいろと書かれた本。
あまりまとまりはない結構雑多な本だが、コラム集と考えればこんなものか。そうしたもので良ければ、というところ。
受験生やその親には参考になることもあるのだろうと思う。
そうしたもので良ければ、という本だろう。

以下メモ。
・反抗期真っ盛りの十五歳で受験するよりは十二歳で受験したほうがいい場合があるかもしれない。
・受験日や受験回数の設定などによって偏差値を移動させることは可能だ。
・日比谷などの一部の都立高は確かに復権したが、中堅以下の都立高は下がった。
・国際的な分類をベースにした思考コードに従って、より深い思考を問う受験がなされる時代になってきている。
・男子と女子で適切な教育の進め方に違いがあるかもしれないから、男子校女子校のほうが優れている可能性はある。

現時点のまとめ

『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』
櫻井武 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-513522-8
情動がどのように発生するかという脳科学的な知見をまとめた本。
一応「こころ」をモチーフにはしているが、それほど格別なテーマがあるでもなく、最近新しい発見がいくつもあったわけでもなく、ブレイクスルーがあったわけでもなく、情動の脳科学に関する現時点のまとめ、という以上のものはない。まとめとしてはまとめなので、それでも良ければ、という本か。
脳科学についての初心者とかにはよいのではないだろうか。
この界隈は類書も多いから、探せば面白い本もありそうだが、それはそれとして。
取り立てて特別ということはないまとめ。
それでも良ければ、という本だろう。

以下メモ。
・脳は全身からフィードバックを受けているので、SFに出てくるような脳だけを純粋培養したものが思い通りに機能するかどうかには疑問がある。
・感覚の入力は認知をつかさどる大脳皮質と情動をつかさどる大脳辺縁系に別々に伝えられる。怖いものを見て、それを認識して、すくみあがった、と思っても、実際にはそれらは並列で起こっている。

地球温暖化とうざい

『地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来』
横山祐典 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-513515-0
地球古気候の研究に関して書かれた本。
二言目には地球温暖化が出てくる啓蒙的な英雄科学観の本で、個人的にはお薦めしないが、それでも良ければ、一冊の本ではある、というところか。
言葉悪く言えば、科学はえらい科学者はすごい、おまえら無知蒙昧の徒にそれを教えてやる、という本だが、気にならない人なら。
そこまでひどくはないのだろうが。でもまあそんな感じ。
それでも良ければ、という本だろう。
なお、カルタゴは滅ぼさねばならない。

古典っぽい

小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?』
適菜収 著
講談社+α新書
ISBN978-4-06-513733-8
小林秀雄のアンチョコ本。
実際にはアンチョコというより小林秀雄の言葉を借りた著者の思想が書かれているのだろうが、大体アンチョコ本と考えていいと思う。それでよければ、という本か。
合う人には合うだろうし、合わない人はくだらないことが書かれているなとしか思わないだろうから、なんか古典あるあるという感じ。
小林秀雄は古典の位置にある、と積極的に評価しておこう。
ですます調とだである体が混在するのはなんとかならんかとは思うが。
それで良ければ、という本だろう。
小林の思想を一言でいえば、全体論
全体論なので、還元論的な近代や近代科学を批判するのはお手の物ではある。
しかし、全体論だって昨日今日出てきた議論ではないわけで、(近代の)毒を克服する方法は毒に当たるほかない、と言った小林がどこまで近代批判をしたかったかはともかく、全体論が何故近代を克服できなかったのかは問われなければならないだろう。
小林は計算と考えは違うといい、全体論としてはそうなのだろうが、計算と考えが異なる例として将棋を挙げている点からしても、コンピューター将棋が人間を破る時代に全体論万歳とはいえないのではないだろうか。
その上で、領域という問題もある。
小林が言っていることは、近代科学思考は芸術や歴史や政治に入ってくるな、ということだ。著者的には漢ごころも近代科学思考との類比で捉えられている。
美しい花がある、花の美しさという様なものはない、という言説は、芸術分野における全体論の無類の強さを証しているが、社会批判においてもそれは有効なのだろうか。
全体論だから古典も全体を玩味するよりなく、小林は素読を行えと言っているが、教育分野において全体論が有効かどうかは、私にはよく分からない。
顔を見ればその人が分かるというのは、全体論としてはそうなのだろうが、警察官や裁判官がそんなことを言い出したらやべぇやつなわけで、社会批判としては適応する領域を間違っているといえるだろう。
このように、適応する領域を考えなければならない。
さらにいえば、芸術が全体論の牙城でいられるかどうかが、問われてもいいのではないだろうか。

以下メモ。
・少年は実在論を好み、青年は観念論に転じ、老年は神秘主義になる。

珍しめの題材か

『宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来』
小泉宏之 著
中公新書
ISBN978-4-12-102507-4
宇宙を移動するための推進エンジンについて書かれた本。
個人的に、宇宙探査とか個々の探査機について書かれたものを読んだことはあってもエンジン全般について書かれた本を読んだのは初めてだったので、興味深く読めた。興味があるならば読んでみてもよい本か。
普段から宇宙探査のニュースを追っているような人にどうかは分からないが。
一から説明していればこんなものなのだろうが、あまり深いところまでは書かれていない気がする。
あくまで初心者向け。
の割には、火星の人の話が何度も出てきてちょっとうんざりするが。
それでもよければ、という本だろう。