『働かないアリに意義がある 社会性昆虫の最新知見に学ぶ、集団と個の快適な関係』

長谷川英祐 著
メディアファクトリー新書
ISBN978-4-8401-3661-7
ハチ目を中心に社会性生物の生態を進化生物学的に描いたエッセイ。
エッセイなので読みやすいし、あれこれ書かれていて、楽しめる本だと思う。興味があるならば、お薦めできる本。
エッセイであるせいか、ヒトの社会とアリの社会は違うと自分で書いておきながらやや我田引水的に教訓を引き出すきらいはあるが、個人的には許容範囲内だった。
科学者が自分の研究領域に関して一般向けに書いたエッセイとして、標準といったところ。実際にはその標準を達成するのが難しいと考えれば、悪くない本だと思う。
興味があるならば、購読しても良い本だろう。

以下メモ。
・複雑な情報処理能力を持たないハチやアリが仲間に仕事を分担させるとき、反応閾値を使っていると考えられる。働きアリの個々の個体で仕事のしやすさに違いがあり、必要とされる仕事量が少ないときには、仕事をしやすいアリだけが働き、必要な仕事が増えたときに、仕事をしにくいアリも働く。こうして、必要とされる仕事が管理者もいないのに巧く回っていく。
オオズアリの兵隊アリは普段子育てなどをしないが、働きアリの数を減らすと子育てをするようになる。
・反応閾値が同じだと、あるときに皆が働いて、次の瞬間疲れて誰も働けなくなる、ということが起こりかねない。
・反応閾値の違いは少なくとも一部遺伝に基づいており、ミツバチでは、女王が何匹ものオスと交尾するによって、働きバチの反応閾値の分散が大きくなっている。
・膜翅目(ハチ目)はオスが単数体であるため、娘はヒトなどと同じく1/2しか自分の遺伝子を持たないのに、姉妹は父親の同じ遺伝子と母親の遺伝子の半分を共有することになり、遺伝子の共有が3/4になる。ハチやアリで真社会性への進化が複数回起こったのは、姉妹の方が娘よりも血縁度が高く、姉妹で社会を作ることによって自分の遺伝子を残しやすくなるからだと考えられる。
・社会性生物の中には、自分では働かずに他のメンバーの働きにフリーライドして子孫を残そうとするチーターが出るが、コロニーの中にチーターがいるとコロニーそのものの増殖率が落ちるので、チーターだらけにはなってしまわない。
・ヤマトシロアリの女王は、次世代の女王に自分の遺伝子をホモ接合で持つメスを産む。オスの王は非常に長命で、何世代もの女王と配合を繰り返すが、王の遺伝子が濃くなっていくことはない。
・コカミアリやウメマツアリは、次世代の女王に自分のクローンを作る。ワーカーは有性生殖で産まれてくるが、女王が産むオスは、女王の遺伝子を持たず、父親の遺伝子だけを受け継いでいる。女王とオスは、遺伝的には別種になる。