『質量はどのように生まれるのか 素粒子物理最大のミステリーに迫る』

橋本省二 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-257680-2
質量がどのように生まれるかについて書かれた本。
全体に、素粒子物理学のものとしては標準的な一般向け解説書、という本か。特別でもないが悪くもなく。質量がどのように生まれるかについて書かれているので、それに興味があるならば、というところ。
やや詰め込みすぎの感はあるが、質量に関する説明としては話の筋を追いづらい面はあるものの、いろいろと詰め込まれているのは読み物としては楽しいので、一長一短。本書の分かりにくさは、多分、詰め込みすぎというところから来ている気がするので、他にも素粒子物理の本を読んでいるような人なら、大丈夫だと思う。
後、個人的には、結局のところ、数式を解くとこうなるからこうなんだ、という以上のことはあまりいっていないような印象を受けたが、そういうものなんだろうか。光速で進めないことが質量の本質、ということで良いのだろうか。
全体的に、特別でもないが悪くもない本。
興味があるならば読んでみても、という本だろう。

以下メモ。
・運動量とエネルギーの関係を、異なる座標系でも同一の法則が働くように調整すると、ローレンツ変換が出てきて、E=mc^2/√(1-v^2/c^2) が導かれる。静止しているときはv=0だから、E=mc^2。
・粒子が回転しているとき、粒子は進行方向に対して左巻きか右巻きかで回転している。回転しながら進む粒子を、追い越していく粒子から見た場合、粒子は同じ向きに回転しながら逆走するので、回転の向きは反対に見える。右巻きに進んでいる粒子でも、追い越していく粒子から見れば、左巻きになる。質量ゼロの物質は光速で進むが光速で走る粒子を追い越すことはできないから、質量ゼロのとき、粒子は、左巻きか右巻きかが完全に定まる。質量のある粒子は光速で走ることができないため、両方の回転が混ざり合ったものとなる。
・電子等の粒子は、スピンという回転量を持っているが、弱い力は、スピンがマイナスの粒子(とスピンがプラスの反粒子)にしか働かない。
・ボース粒子はエネルギーが最低の状態にすべての粒子が集まってボース‐アインシュタイン凝縮を起こすが、二つの粒子を同じ状態にすることができないフェルミ粒子でも、二つの粒子がペアになれば、ペアがエネルギー最低の状態に入り込んでボース‐アインシュタイン凝縮を起こすことができる。真空中では、クォークと反クォークがペアになって、対生成、対消滅を繰り返し、ボース‐アインシュタイン凝縮を起こしていると考えられる。
・真空中のクォークのペアは、運動量を持たないように逆向きに走り、角運動量を持たないように回転の向きが同じになっている(逆向きに走るので打ち消し合う)。左巻きクォーク左巻きの反クォークとペアを作り、右巻きのクォークは右巻きの反クォークとペアになっている。
クォークの質量をゼロと仮定しよう。質量ゼロの粒子は光速で進むから、左巻きか右巻きかを完全に区別することができる(カイラル対称性を持つ)。このクォークが真空中を進むとき、例えば右巻きのクォークは、真空中で左巻きクォークとペアになっている左巻きの反クォーク対消滅して、左巻きクォークが残る。左巻きクォークは、今度は右巻きの反クォーク対消滅して、右巻きのクォークになってしまう。クォークの回転が左巻きか右巻きかを区別することはもはやできない。さらに回転の向きが変わる瞬間、クォークは逆向きに進む。クォークそのものは光速で走っていても、行ったり来たりすることで平均の速度が遅くなってしまう。
・実際には、クォークが現実の2%程度の質量を持つと考えると、残りの98%をこの機構で説明することができる。クォークが予め持っていた2%の質量については、弱い力の理論が持つゲージ対称性を壊すヒッグス場という考えを持ち込む。左巻きの粒子にしか効かない弱い力の場合は左巻きと右巻きを混ぜることができないが、ヒッグス場を組み込むことで、ゲージ対称性を保ったまま左巻きと右巻きを混ぜることが可能になる。ヒッグス場がゼロでなければ、この項目が質量として効いてくる。