『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』

小川剛生 著
中公新書
ISBN978-4-12-102463-3
兼好法師の生涯に関して書かれた本。
伝記ではなく、兼好法師の消息が分かる数少ない同時代史料を丹念に読み解いたもので、史料解説としては十分に面白かった。興味があるならばお薦めしたい。
史料はどうしても断片的なものなので、ほかの解釈や読み方が多分ありうるのだろうとは思うが、それはしょうがない。
決定版とはいかなくても、とりあえずこんなものではないだろうか。
史書として十分に面白い。
興味があるならばお薦めできる本だと思う。

以下メモ。
勅撰和歌集に採用されても身分が低い歌人はよみ人知らずにされてしまう。出家すれば法名で採られることもあるので、身分の低い歌人にとって遁世は名を顕す手段だった。
勅撰集にすべて兼好法師で入集している兼好法師もそうした身分だったと考えられる。
兼好法師高師直のために動いていたことは貴族の日記からも裏付けられるが、塩冶判官の妻に横恋慕した師直の艶書の代筆をして失敗したという「太平記」の話は、要は最初のラブレターは散文でなく和歌を一首送るくらいにしておけという教科書的教訓である。