紹介というよりは光秀論

明智光秀 残虐と謀略 一級史料で読み解く』
橋場日月 著
祥伝社新書
ISBN978-4-396-111546-3
明智光秀について書かれた本。
一次史料を軸としたものではあるが、やや思い込みというか思い入れが強く、著者なりの光秀観を描いたもの、と考えておいたほうがよい本か。それでよければ、というもの。
長篠の合戦における鉄砲の役割は最近では軽視される傾向があると思うが、鉄砲の集中運用の発案者を光秀に比定してその武功を顕彰しているのは、屋上屋を架している感じがするとか、秀吉との出世争いとその挫折という描写は本能寺の変とそれを秀吉が打ち破ったことから来る後付の感が強いとか、思い入れは相当強いと思う。
それは、必ずしも間違っているわけではないのかもしれないが、一次史料からだけでは出てこないことは確かであり、一次史料から現れる光秀像を探ろうという本書のテーマとは齟齬をきたしているというべきだろう。
全体として、いい本だとはいえない。
一次史料を中心に紹介した本としては、それはそれで貴重だろうから、そうしたものでかまわなければ、というところか。
それでよければ、という本だろう。

以下メモ。
・光秀には御ツマキという妹がいて、信長の奥の差配をしていた女官だったが、天正九年に亡くなった。彼女が信長と光秀の間を取り持ったことが光秀出世の要因であり、彼女がいなくなったことは光秀の将来に大きな影をもたらしただろう。