『日本人の戦争 作家の日記を読む』

ドナルド・キーン 著/角地幸男 訳
文春文庫
ISBN978-4-16-765180-0
太平洋戦争中及びその前後の日本の作家の日記をいくつか紹介した本。
その作家が戦争の推移に関して感じたことや作家の戦争観などを中心にまとめたものだが、特にこれといったテーマはなく、たんたんと紹介しただけのものではある。
付録についている平野啓一郎との対談によれば、作家によって多様な見方をしている、というのがテーマの一つのようだが、そのようなテーマは私には読み取れなかった。
むしろ、この人は分かるこの人は分からないという一様な解釈しか存在していないように私には思える。
なんというか、昆虫を見る昆虫学者の視線というか。
「戦争を始めたのが日本人でなく英米人であると非難されるのはどう見てもおかしいが、愛国主義は事実に優先した」と著者が書いているとき、現代の右翼でさえ主張しそうなこのことに著者はまったく何の理解も共感も示していないように思われ、事実関係について著者に異議を唱えるつもりはないものの、少なくともその論旨は理解できる者としては、本書には、見られる昆虫側としての居心地の悪さを感じてしまった。
日記を紹介したもの、といえばそういうものなので、それでよければ、というところではあるが、個人的には薦めにくい本ではある。
積極的には、私は本書を薦めない。