『葬式仏教の誕生 中世の仏教革命』

松尾剛次
平凡社新書
ISBN978-4-582-85600-2
中世において僧侶が葬送にかかわるようになったことが書かれた本。
あまり深くはないが、一通りの流れはあって、割と面白かった。民俗文化史的なことに興味があれば、読んでみてもよい本だと思う。
欠点としては、護教的というのではないと思うが、やや批判が深くないというか、表面をなぞっているだけという感はある。仏教勢力が葬式に携わるようになったことを著者は高く評価しているが、逆にいえば、葬式を押しつけたともいえるわけで。
骨が霊魂の依り代、みたいな考えがいきなり出てきて驚くが、これはこの著者の他の本で考証されているのだろうか。
全体的には割と面白かったし、悪くはない本だと思う。
興味があるならば読んでみても良い本だろう。

以下メモ。
・韓国では儒教的葬儀とシャーマニズム的葬儀があるが、儒教では子孫が先祖を祭るため、子どものない未婚者や異常死した人はシャーマニズム的葬儀で送られる。
・古代日本において多くの庶民は風葬だっただろう。
・朝廷儀礼にかかわり、神仏習合によって神事にもかかわる官僧は、死穢を避けることが大事であり、葬儀に携わることはなかった。
・中世において観念が広まった、極楽浄土や(弥勒が上った)兜率天のような死後に赴くあの世は、この世からは隔絶した場所にあり、そこへ赴くための葬送儀礼が必要とされただろう。
末法思想の浸透した中世においては、死後に阿弥陀仏の極楽浄土に行き、五十六億七千万年後の弥勒化生時に弥勒の説法を聞いて成仏するという信仰が多かった。
・中世に盛んとなった、律宗禅宗念仏宗などの遁世僧は、死穢を避けることなく、葬儀に携わった。
・これらの僧は墓所として石塔を建てたが、石なのは五十六億七千万年後にも存在させるためである。