『ミラーニューロンの発見 「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』

マルコ・イアコボーニ 著/塩原道緒 訳
ハヤカワ・ノンフィクション文庫
ISBN978-4-15-050374-1
ミラーニューロンに関して書かれた脳科学の本。
格別というほどではないが、脳科学の本としてはそれなりの本か。そうしたもので良ければ、というものだと思う。
格別とまではいかない理由は、まず、良い悪いは別にして、ミラーニューロンについてはまだよく分かっていないのに、そこを無理に一冊にまとめてしまっている感はある。
また、多分そのことも手伝ってか、論理的にあまりすっきりとはしていないと思う。ミラーニューロンとはそもそも何か、というのも分かりづらいし。
ミラーニューロンが他人の意図に気づけるとしても、それは結局、人間が他人の意図に気づけるのは何故か、という質問を、ミラーニューロンが他人の意図に気づけるのは何故か、と先送りにしているだけではないだろうか。
例えば、人は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ、という心理学説がある(という話は本書には出てこない)。そこでぶっちゃけいうと、ミラーニューロンは、他人が悲しんでいるのをコードすることはできないが、他人が泣いているのをコードすることはできる、だから、ミラーニューロンは他人と共感することができるのだ、と論理的にはこうなるのではないかと私などは思うが、前段が書かれていないのだから、本書ではこの論理は完成しない。
本書だけ読んでそこまで理解するのは、かなり難しいのではないだろうか。
なので、格別によい本だとはいえないと思う。
脳科学についてある程度知っている人が、何冊か読むうちの一冊ならば、というところではないだろうか。
そうしたもので良ければ、という本だろう。

以下メモ。
ミラーニューロンは、自分があることをしているときに活性化し、他人が同じことをしているのを見ているときにも活性化するニューロンである。
ミラーニューロンはマカクの脳で見つかったが、人間にも同様な機能を持つ細胞があると考えられる。
・解剖学的にミラーニューロンがあるマカクの脳領域が人間のブローカ野に当たること、ミラーニューロンが音にも反応すること、ミラーニューロンが他人との感情の共有を司る可能性があること、身振りが言語に先立つこと、などから、ミラーニューロンは言語に対しても大きな影響を持つと考えられる。
(ピーナッツを割るときに活性化するミラーニューロンは、他人がピーナッツを割るときだけでなく、ピーナッツが割られる音がしたときにも反応する)
・例えば、人間が、「バ」という音を聞いたとき、「バ」という発声をするときに活性化するミラーニューロンが活性化し、その結果、人間はその音が「バ」であると知る、ということが考えられる。