『ランド 世界を支配した研究所』

アレックス・アベラ 著/牧野洋 訳
文春文庫
ISBN978-4-16-765174-9
シンクタンクランドと、そこにかかわった人たちの歴史について書かれた本。
無駄にだらだらと長いよくある海外ノンフィクションで、テーマ的にはあまりすっきりとしないが、アメリカの現代史に興味があって何冊も読むうちの一冊なら、興味深く読めると思う。そうしたものでよければ、という本か。
別に迎合的ではないが、ランドの承認の元に書かれているせいか批判的でもなく、全体に生ぬるい感じはある。ランドの合理主義を批判の題目にすえるというのは、ランドが合理主義の牙城である限りにおいて最も根本的な批判にはなりうるのかもしれないが(本書の英題は「理性の戦士たち」である)、現実には、ランド知識人たちのソ連に対する狂信的な認識をほとんど揶揄しかしていないなど、他の言及すべき項目をおろそかにする言い訳になっているように感じる。
ランド知識人の何人かがユダヤ人であることはおそらくなんらかの歪みをもたらしていると思うが、奥歯にもののはさまったような記述しかなされていないのは、アメリカにおいては微妙な問題だからだろうか。
あまり初心者向けとか広く一般向けとかではなくて、こういうのを楽しめるという人向きの本。
そうしたものでよければ、という本だろう。

以下メモ。
・ランド知識人や保守主義者たちは、アイゼンハワーの対ソ政策を生ぬるいと感じており、おりに触れて批判し、また一部はケネディの応援に回った。
 アイゼンハワーが最後の演説で軍産複合体を槍玉に挙げたのは、そのためである。
イラク戦争に至る過程において、ランド知識人たちは亡命イラク人のアハマド・チャラビをアタチュルクのように近代化を押し進める人物として期待し、彼らがもたらした嘘の情報に踊らされた。