『エントロピーがわかる 神秘のベールをはぐ7つのゲーム』

アリー・ベン‐ナイム 著/中嶋一雄 訳
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-257690-1
エントロピーについての解説書。
基本的に、サイコロを用いた仮設実験によって、エントロピーの増大という現象が10^23個というオーダーの原子や分子が示す挙動の確率的な結果に過ぎないこと、エントロピーの増大がなんら神秘的なものではなく、大数の法則という極めて常識的な規則に従ったものであること、を説明した本。
内容は、エントロピーとは常識的なものだ、と説明した本だけに常識的なものであるはずだし、興味深いので、読んでみても良い本だとしておきたいが、翻訳のせいなのかどうか、個々の文章は難しいと思う。
定性的、とか、系を見出す確率、とかで通じるのだろうか。定性的という言葉は何度か出てくるので、多分原著者が好きな言葉なのだろう。
他に、例えば、「情報理論では、正体不明(未知)の情報の量、すなわち質問をすることによって得られる必要な情報量は、確率の分布で定義される」というのは、確かにそのとおりなのだろうしこれで絶対に分からないというものでもないが、もう少し何とかならないものだろうか。
それでも良いという人向きか。
エントロピーは常識的なものだ、と説明した本だけに、内容は、常識的なものであるはずなのだが。
内容は興味深いが、訳文は少々分かりにくい。
それでも良ければ読んでみても、という本だろう。

以下メモ。
・物質が10^23個オーダーの原子や分子でできていることは、第二法則にとって重要である。
10^23個のコインを投げたら、大体5×10^22個のコインが表になるだろうが、それが1000個や1万個や10^6個くらい多かったり少なかったりしても、区別できない。
・確率的な振る舞いによって、その結果を特定するために必要な情報の量は増大する。それがエントロピーであると定義できる。
10^23個のコインがすべて表なら、すべてのコインの表裏を特定するために必要な情報はゼロである。5×10^22個のコインが表のとき、すべてのコインの表裏を特定するために必要な情報は最大になる。
エントロピーと時間の矢の関係は、結局我々の錯覚に過ぎない。
0度の水と100度の水を混ぜたときには50度の水になって、逆にはならないことを我々は知っているが、10^(10^30)生きている人がいたら、人生のうちに何度か、コップの水の一部が凍り、一部が沸騰するという経験をしているだろう。その人にとって、エントロピーと時間の矢との関係は我々が感じるものとは異なるに違いない。
・しかしながら、熱力学の第二法則は、10^10年というオーダーの宇宙年齢の時間では絶対的である、という意味では、同程度の宇宙年齢時間の確実性しかない光速度不変の原理のような物理法則以上の絶対性を有している。
・可能性のあるあらゆる結果をちょうど半分にできる質問が、平均的に最大の情報を得られる質問である。