『全体主義』

エンツォ・トラヴェルソ 著/柱本元彦
平凡社新書
ISBN978-4-582-85522-7
全体主義という用語の歴史を粗描した本。
ひとつの概念史、といえば、そうした小史だが、特別な内容はないと思うし、分かりやすくはないし、翻訳文体で読みにくいし、で、特に薦めるような本ではない、と思った。
啓蒙主義から全体主義が出てきた、というような具体性のない記述で、ああ分かったと思える人向き。概念史とは論争の歴史だから、反啓蒙主義から全体主義が出てきた、というような話も登場するのであって、私には何が何やら。
総体的にいえば、主力となる話は、全体主義、という言葉は、それと敵対する自由主義的な西欧文明の無批判な賞賛や、ナチズムとスターリニズムとをいっしょくたにすることでナチ犯罪の隠蔽に使われてきた、というところだろうか。ただし用語の小史なので、詳細に論じられている訳でもない。
そういう内容で、簡略な小史で良くて、読みにくく分かりにくいものでも良い、という人向け。
一般向けに、特に、といえるほどの内容はないと思う。

以下メモ。
全体主義の概念は、第一次世界大戦という国家総動員の戦争から生まれた。
全体主義的という言葉は最初、ファシスト党の批判者たちが使い始めたが、ファシスト全体主義を自らの理念を説明する用語(国家と個人との合一)として用いた。ナチスでは、国家よりも民族を上位に置いたため、全体主義という概念はやや冷ややかに見られた。