『平家の群像 物語から史実へ』

高橋昌明 著
岩波新書
ISBN978-4-00-431212-3
没落する平家の人々を追った本。
モチーフとしては、平家の人々を追って、平家の内部事情が一枚岩ではなかったことを描こうとしたもので、大体のところ、普通の歴史読み物、という本か。そうしたもので良ければ、というもの。
ただし、そういう本であるからなのかどうか、全体的にややバランスが悪いのではないかという印象は受けた。源平の戦いをある程度知っていて、もう一つ違った視点からのものも読んでみたい、という人向きか。別に難しくはないが、初心者向きではないと思う。全体の中に本書を置けばバランスが取れているのかもしれないが、本書だけでは少し片寄っているという印象。私は、中世史はよく知らないので分からないが。
サブタイトルになっている『平家物語』と史実とのかかわり、というようなモチーフもあるのだろうが、その辺りも、余りすっきりとは分からなかった。
だから、特別ではないが、歴史読み物としては一応の歴史読み物、というところか。
そうしたもので良ければ、読んでみても、という本だろう。

以下メモ。
・三位以上の上流貴族には家政を司る家令が官給されており、その家は公的な存在だった。源氏と平家といって源家と平氏といわないのは、朝廷における両者の位置の高低差がある。
・重盛は清盛の長子で嫡男だが、清盛の正妻の子で建礼門院実兄の宗盛が勢力を伸ばし、重盛、清盛の没後は内大臣となって一門の統帥となった。清盛も、父忠盛の正室の子である頼盛との関係はギクシャクしている。
・平家の御家人は、こうした平家一門のそれぞれの家に分散してついていた。従ってその軍隊も、一門の中の家々の連合軍という形を取った。富士川の合戦で平家軍が水鳥の音に驚いて逃げたというのは、清盛末弟の忠度の部隊がもたらした情報であり、彼は、連合軍の一所属部隊として敗戦の責任を他の部隊に押し付ける必要があった。