『量子テレポーテーション 瞬間移動は可能なのか?』

古澤明 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-257648-2
量子テレポーテーションについて書かれた本。
大体のところ入門概説で、入門概説といっても、量子力学の話であるから簡単ではないし、実際、読んでも全部は分からないのだろうと思うが(全部分かるには数式できちんと理解しろということなのだろう)、こうしたものとしては、一応それなりの解説か。
そうしたもので良ければ、読んでみても、という本。
ただし、位置と運動量の量子テレポーテーション、二分の一スピンの量子テレポーテーション(実際には光子の偏光を使っている)、光の波束のsin成分とcos成分の量子テレポーテーション、の三つが書かれていて、要するに同じことが三回重複しているだけ、という感じはしないでもない(三回書かれているから分かりやすいということは、多分ないだろう)。
量子テレポーテーションそのものは、大体次のようなものらしい。
先ず、エンタングルした二つの量子、AとBを用意する。
片方の量子Aに、入力量子を相互作用させる。
相互作用した結果の一部を測定する。もしくは、測定によって量子Aと入力量子とをエンタングルさせる。これにより、入力量子の情報がポテンシャルとして量子Bに移動する。測定は一部だけを行うので、測定によって量子Bの波束が収縮することはないし、この段階で量子Bを測定しても、入力量子の情報は全く得られない。
測定した結果を量子Bのある元へ送る(情報を送るのに光速は超えられないので、瞬間移動といっても光速を超える訳ではない)。
量子Bの側で、測定結果を元に操作を施すと、入力量子と同じ情報を持った量子を再現することができる。つまり量子Aの場所で量子Aと相互作用させた入力量子が、量子Bの場所へ転送されたことになる。
テレポーテーションという用語ではあるが、瞬間移動というよりは転送と考えた方が分かりやすいのか(著者は、『スタートレック』に出てくる瞬間移動のことだと書いているが、何を指しているのか分からない。『スタートレック』に出てくる転送(beam up)に近いと思う)。
重複感もあるし、特別というほどではないが、量子力学に関する本としては、こんなものという本。特別ではないが一応はそれなりの解説か。
そうしたもので良ければ、読んでみても、という本だろう。

以下メモ。
・一つの量子の二つの共役物理量を確定することは不確定性原理により不可能だが、二つの量子の二つの物理量を同時に測定することはできる。例えば、相対位置と運動量の和を測定することはできる。この測定を行った時、二つの量子は、片方の位置や運動量が分かればもう片方の位置や運動量も自動的に決まるから、エンタングルした状態になる。
不確定性原理によりエネルギーと時間を同時に確定することはできないが、光子のエネルギーはプランク定数×光の周波数で決まっているので、光子では波にとっての時間に相当する位相が全く定まらないことになる。