『「戦争体験」の戦後史 世代・教養・イデオロギー』

福間良明
中公新書
ISBN978-4-12-101990-5
第二次世界大戦における主に学徒出陣兵の戦争体験が、戦後どのように語られてきたか、ということに関して書かれた本。
全体的にテーマや対象の絞り込みは甘いが、小史としては一応の小史、という本か。
テーマは、戦争体験を巡る論がどのように変容してきたか、という話と、戦争体験と教養主義との関係、という二つの軸があって、まとまりが悪く分かりにくいものになっているし、分析対象となる戦争体験も、『きけわだつみのこえ』を中心にしながら、それ以外のものも幅広く含み、焦点がぼけている感じがする。
戦争体験を巡る論争の噛み合わなさっぷりとか、面白い部分もあり、小史としてならばそれなりの本だと思うが、小史として読むには少し重厚か。文章が長いのでそれほど目立つのでもないが、語尾がほとんど「〜た」で終わるのも、やや読みにくさを感じさせる。
それでも良いという人や、戦争体験の受容のされ方を日々考えているという人には、良いかもしれない。
一冊の本としての出来は必ずしも良いとはいえないと思うが、小史で良ければ、という本か。
それでも良ければ、読んでみても、という本だろう。

以下メモ。
・そもそも、マルクス主義自由主義の書物が読めなくなった時代に学生時代を過ごした世代は、その上の世代からは教養に欠けると見られていた。
・戦後復興期における教養を受容する層の広がりに乗って、インテリ学生の遺稿集だった『きけわだつみのこえ』はベストセラーとなった。
・『きけわだつみのこえ』は、正統的教養の代表である岩波文庫には入れられず、庶民的教養を代表するカッパブックスに収められている。
・70年安保の時代、大学紛争を戦った学生たちにとって、こうした教養は自分たちを押さえつける敵であり、『きけわだつみのこえ』の発刊を記念して作られた「わだつみ像」が破壊される事件も起きている。
・大学における教養主義が殆ど崩壊すると、『きけわだつみのこえ』は正統的教養との結び付きを強め、岩波文庫にも入れられた。