『殉死の構造』

山本博文
講談社学術文庫
ISBN978-4-06-159893-5
江戸時代初期に流行した殉死の実例を尋ねて、殉死する武士の心性を探ろうとした本。
後半部、自己主張としての殉死から世間体を気にすることへの移行、という話は、余り巧くまとまってはいないように思うが、殉死の実例を尋ねたものとしては、なかなかに興味深く、これで一冊の本、という本か。そうしたもので良ければ、読んでみても良い本。
殉死の実例を検討した本と見るには、後半部が少し違うし、その後半部のまとまりがやや悪いので、強く薦めるには中途半端なところもあるが、特に悪いという程でもないと思う。
興味があれば、読んでみても良い本だろう。
以下メモ。
・殉死した人は、衆道関係にあった小姓と、特別に取り立てられた者や普通なら死罪になるところを助けられた者の他、軽い身分の人が多く、家老や重臣は殆ど殉死していない。低身分の者が殉死する背景には、仲間内の義理を優先して自分の生命や常人の道徳を軽視したかぶき者的なメンタリティがあっただろう。
・殉死によって低身分の者が主君と直接結び付くことは、幕藩体制の秩序を乱すものであり、殉死はかぶき者と共に幕府から弾圧される運命にあった。
・時代は少し後になるが、赤穂浪士たちの取った行動も、武士の一分を立たせるために行ったものであり、かぶき者や殉死した者の心性に近い。
・しかし、武士の一分が立たないというのは、一面で世間の評判を気にするということでもあって、主君との一体感というかぶき者的な忠義のあり方を否定した幕藩体制下にあっては、忠義は、世間という社会的な強制によってしか成り立たなかった。