『煩悩の文法 体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』

定延利之
ちくま新書
ISBN978-4-480-06438-7
体験を話す時には日本語の文法が変化する、ということが書かれた本。
日本語では、語られる対象が「モノ」か「デキゴト」かによって文法が異なるが、個人が体験した「モノ」は、単なる「モノ」であっても、体験した「デキゴト」であるから、「モノ」の文法ではない「デキゴト」の文法が使える。その時の体験とは、主体的に何かを探索したり、あるいは環境から強い感覚を受けることである。例えば、「ポケットで鍵があった」は不自然だが、より広い場所を探索した「ゲオでPS3があった」は使える、とか、「モノ」の状態を現す形容詞は、普通「ときどき」のような頻度語と合わないが、体感を示せる「痛い」のような形容詞なら「ときどき痛い」と言える、とかいうことが、いくつか書かれている。
大体のところ、日本語文法に関して書かれた読み物で、新書では割合にありそうな、という感じのものか。特別でもないが、そうしたもので良ければ、読んでみても、という本。
ただし、必ずしも、サブタイトルのような切り方はしていないと思う。そういう射程は、好意的にいえば多分あるのだろうが、内容としては、ややベタな読み物。
そうした読み物で良ければ、読んでみても、という本だろう。