『武田信玄と勝頼 文書にみる戦国大名の実像』

鴨川達夫 著
岩波新書
ISBN978-4-00-431065-5
武田信玄武田勝頼が残した文書に関して書かれた本。
大体のところ、武田氏の文書について書かれた好事家向けの歴史読み物、と考えておくのが良いような本か。
文書から戦国武将の人間的な感情を読み取ろうというモチーフはあったのかもしれないが、全体的には特にテーマのない歴史読み物。そう特別でもないが、悪くない本なので、戦国時代に興味のある人なら面白く読めるのではないだろうか。私には結構面白かったし、そうしたもので良ければ、読んでみても、という本だろう。
信玄の後半期から勝頼の時代にかけての武田氏の動向に触れた第五章は、文書に関して書かれたという本書の性格とは余り合っていないような気がするので、ばっさり削って他の内容のものにするという手もあったかもしれないが、これはこれで雑録読み物としてはありか。
戦国武将の文書に関して書かれた歴史読み物としては、それなりのものだと思うので、興味があるならば、読んでみても良い本だろう。
以下メモ。
・「出馬」は、大名や大将クラスの人物が出動する時に使われる言葉であって、それより下のクラスの場合「出陣」という。
・信玄が遠江三河に攻め込んだのは、自身を餌にして信長を誘い出し、その隙に別働隊が岐阜を衝く作戦だったろう。
(だから、信長としては先ず別働隊を叩くしかなかったはずだ、と著者は述べているが、長篠の合戦の後、半年近くもかかって岩村城を攻略していることから考えれば、別働隊を叩くのは無理であり、信長にすれば岐阜でじっとしていることが結局最善手だったのではないだろうか)
武田勝頼は信長との和睦の道を探ったが、信玄の出馬を裏切りと感じていた信長は聞く耳を持たなかった。