『百姓から見た戦国大名』

黒田基樹
ちくま新書
ISBN4-480-06313-7
戦国時代の社会に関して、やや思弁的に述べられた本。
戦国社会研究のまとめ、と考えれば、一応は大体そういうものなので、そういうもので良ければ読んでみても、という本か。
それなりに面白いので、やや頭でっかちなまとめ、で良いのなら、興味があれば読んでみても、というところではないかと思う。
大体の筋としては、中世から戦国時代にかけては、飢饉が多く、人々が食べていくのがやっとの時代だった、そうした中で、人々は自分の暮らしを守るために、村を単位に政治的に団結するようになった、村は、生産資源を確保するため、しばしば武力を以って他の村と対立し、または同盟を結んだ、村同士の紛争は、当然のようにその領主の紛争に直結したが、戦国大名はそれぞれの領主を家中として組織化することで、村々の対立が領主の対立へとエスカレートすることを防いだ(逆にいえば村の対立がエスカレートすることを防ぐために、戦国大名の存在が要請された)、戦国大名は、村が成り立っていけるようにこれを保護し、村同士の紛争の解決手段として、公正な裁判を提供することが求められた、というのが、おおまかな内容だろうか。
欠点としては、やや思弁的というか理念的というか、頭でっかちという感はある。先行研究をまとめているのだから、仕方がないしまたこれで大丈夫なのかもしれないが、歴史においては、思弁的というのは、危ういというのとほぼ同義ではある。例えば、著者は、伊勢宗瑞(北条早雲)から氏綱への代替わり(永正十五年、隠居)、信虎から武田信玄への代替わり(天文十年)について、飢饉を背景にした世直しだったと論じているが、直後に引用している下総の寺の過去帳では、この両年に飢饉のため死者数が増えている事実はない、とか、飢饉が頻発した時期(15世紀後半から16世紀)と、村が政治団体として組織されるようになった時期(13世紀から15世紀)とが対応していない、とか。
しかしこの点を除けば、それなりに面白いので、まとめで良いのなら読んでみても、という本ではないだろうか。興味があるのならば、読んでみても良い本だろう。
以下メモ。
戦国大名が、村同士の紛争解決を担ったのと同様に、宿町における紛争解決を保障したものが楽市である。
・戦国時代におけるこうした、支配者と支配者によって域内の平和が荷担された領域、という関係は、秀吉によって列島規模に拡大され、また、近現代の国家へと繋がっていくと考えられる。