『事故と心理 なぜ事故に好かれてしまうのか』

吉田信彌 著
中公新書
ISBN4-
交通事故と人間行動の関連を研究する交通心理学に関して、いくつかのことが書かれた本。
概説というよりは訓詁趣味、といった感じの説明がネチネチダラダラと続く本で、良くいえば、エッセイ的な雑学読み物といえば、雑学読み物という本か。
内容的にはそれなりに興味深いことが書かれていると思うので、読み物として読める人には、面白い本だろう。
ただし、全体的な構成や構造というものはなく、著者が、全体として何をしようとしたのか、何が言いたかったのかは、私には余りよく分からなかった(そういうのは多分元々ないのだろうとしても)。説明がどこまでも訓詁趣味で、あることを説明し次のステップに進む、という目的を持った説明ではなく、そういう説明が、ただ団子状に寄り集まって、一冊になった、という感じの本。一冊の本として、良くできているとはいえないと、私は考える。
これを完全に読み物と看做せる人にはそれなりの読み物なのだろうから、雑学読み物と看做せて、それで良いという人なら、読んでみても、というところだが、積極的に薦めるには少し足りないのではないだろうか。個人的には、薦めづらい本ではあった。
以下メモ。
・教習場で飲酒運転の実験を行ったところ、被験者達は、飲酒時の運転を過大に評価して、運転振りの変化には気付かないようだった。
(つまり免許取得時に飲酒運転の経験を強制しても、飲酒運転の危険性を知るのではなく、(酔いのために)その危険性を過少に評価する結果に終わるだろう)
エアバッグが広く普及した90年代後半、事故発生件数は増え、死者数は減少したが、歩行中の死者も減少しており、安全装置の導入によって却って運転が危険なものになる、ということにはならなかったと考えられる。またエアバッグの効果が大きいと考えられる普通乗用車同士の正面衝突での運転者の死亡率は、90年代を通して低下し続けており、エアバッグの効果は、必ずしも確認できない。
・停止線で車が止まらなければならないのは、自車の存在を交通者に見せるためであり、左右の確認は、停止線から徐行した先で行う。
・夕方に交通事故が多いのは、交通量が増えるからであって、事故が増加する時間は季節によっては変動しないから、夕暮れで運転がしにくくなるからではない。