『フェルマーの最終定理』

サイモン・シン 著 青木薫
新潮文庫
ISBN4-10-215971-1
フェルマーの定理に関して書かれた数学読み物。
評判となった本で、確かに評判になることも分からなくはないが、私には必ずしも合わなかった、という本か。
良い点としては、補遺以外には難しいところは余りないのに、フェルマーの定理の現代数学における意義や、その証明方法のある程度のところまでがきっちりと説明されているのは、結構凄いことではあるのだろう。
スフィンクスが何をしたのか、私は知らないが。後、谷村豊の名前が「とよ」だったのに、しまいには本人も「ゆたか」と名乗るようになった、というのは、原文がどうなっているのか知らないが、英文で分かるのだろうか)
実際の難しい数学的内容を抜きにその数学的意義を語る、というのは、大変なことには違いなかろうから、その辺に価値を見出せる人なら、読んでみても良い本ではないだろうか。
合わなかった、というのは、アレクサンドリアの図書館の話など、他の通俗本からそのまま引っ張ってきただけだろう、という感じのする部分があって、ちょっとどうかという感があること、無駄に長い面があること、数学者的独善さがあること、数学的な内容が、私としてはもう少し欲しかったような気がすること(難しくなるだけかもしれないが)、補遺が、難しい部分は全部補遺に放り込んでいるせいなのかエウクレイデスは今のような数式は使わなかったからそのままでは分かりにくいせいなのか、無駄に難しいように思うこと(√2が無理数であることの証明は、相当に持って回った表現で、私は他の本で予め知っていなかったら難しく感じたと思うし、ピタゴラスの三つ組み数が無限にあることの証明も(メモ参照)、もう少し書きようがあるのではないだろうか)。
中核部分は確かにそれなりに書けてはいるのだろうが、全体的には、そう特別に優れたという訳でもないように思う。
私には合わなかったので強くお薦めする程ではない。こういう分厚い本が好きな人なら、興味があるならば手を出してみても、というところだろう。
以下メモ。
・すべての楕円曲線がモジュラー形式と関連付けられる、というのが谷村=志村予想だが、フェルマーの定理に整数解があるのならば存在するはずのある楕円曲線が、モジュラーでないことが証明された。
フェルマーの定理が成り立つために谷村=志村予想の全体が真である必要はないので、アンドリュー・ワイルズは、ある場合に(楕円曲線の導手が平方因子を持たない場合に)谷村=志村予想が成り立つことを証明した。
・x^2+y^2=z^2を満たす整数解が無限にあることの証明。
奇数を2x+1と置くと、(x+1)^2=x^2+2x+1だから、奇数2x+1に平方数x^2を足すと、平方数(x+1)^2となる。
奇数×奇数は奇数なので奇数の2乗は必ず奇数となるが、その数は、平方数であり且つ奇数(2x+1)となるから、その数に、ある平方数(x^2)を足せば、平方数((x+1)^2)となる。元の奇数は無限に存在するので、この組み合わせは無限に存在する。(Q.E.D.)
3の2乗は9だから9=2x+1と置いてx=4となり、4の2乗に3の2乗を足すと5の2乗になる。
5の2乗は25だから25=2x+1と置いてx=12となり、12の2乗に5の2乗を足すと13の2乗になる。
7の2乗は49だから49=2x+1と置いてx=24となり、24の2乗に7の2乗を足すと25の2乗になる。
……