『宗教批判をめぐる 宗教とは何か[改訂増補版]上』

田川建三
洋泉社・新書MC
ISBN4-86248-029-2
著者による評論集。
一応、宗教批判という眼目としては、「現実」以外のところに精神的なものを設定してそこに逃げ込むこと、に対する批判が、テーマというか、ライトモチーフのように何度か出てくる本ではあるが、現実の選択に当たっては、そのようなことが書かれた本、として選ぶよりは、著者の評論集、と考えて選ぶような本だろう。
つまり著者のファンが買うような本。
基本的には著者の独善的罵倒芸を楽しむ本で、佐高信とか日垣隆とかの辺りを想定してもらうと、そういうものだと思う。
それで良ければ、読んでみても、というところ。
人気や知名度では両氏に遅れを取っているだろうが、それは多分に、新約聖書学という著者の専攻の故だと思うので、もう少し人気が出ても良い人だと私は思うし、興味があるのならば、手を出してみても良いのではないだろうか。
ただし、下巻の方はマタイ福音書に関して書かれているということなので、初めての人には、著者の専門であるそちらの方が、(合わなかった時の保険として)良さそうな気もするが、私はマタイ福音書に対する興味は余りないので、下巻は読まないかもしれない、というのが、読まずに薦める訳にもいかないので難しいところ。
興味があれば、手を出してみても良い本だとしておきたい。
ちなみに、確か呉智英が、吉本隆明についてマルクス主義に片足だけを突っ込んでいる(マルクス主義の地盤の上に完全に立脚している訳ではないから、両足でマルクス主義の上に立っている者との論争に強い)というようなことを書いていたと思うが、この著者についても、どうも私には、片足だけを突っ込んだキリスト教徒のような感じがする。
(そのことが、宗教批判という点において、若干微妙な問題を生じさせる可能性はあるのかもしれないが、私はキリスト教徒ではないし、よく分からない)
もう一つちなみに、著者は、「しかも、エルサレムの市場管理者は、最高価格を押えることはせずに、購買量を制限しているのである」という文の意味がどうも通じないので、日本語で著されたこの本のこの部分が誤訳ではないかと疑ったと書いているが、この文章はそんなにおかしいだろうか?
可能性として、専門家である著者は大元の議論を知っていて、購買量ではなく桝目が、ごまかしのないように制限されていた、ということを、予め知っていたのではないだろうか。