『「イスラムvs.西欧」の近代』

加藤博 著
講談社現代新書
ISBN4-06-149832-0
近代エジプトの思想家が近代をどのように考えていたのかを検討した本。
しかし、著者が何をいおうとしているのかは、私にはさっぱり分からなかった。
内容的には、ナポレオン侵攻以降の近代エジプト史の流れを追いながら近代エジプトで活躍した思想家やその考えを紹介したもの、であるが、単なる紹介であってそもそも何かを論証しようという態度は殆どない上に、紹介されている思想家が複数であるためか相互にばらばらで有機的統一的な理解が難しく(著者は歴史の時間軸の上にそれを置こうとはしているが)、更には、最終章でそれまでは全く論じられていない事柄を持ち出してくるので、本書を全体として理解把握することは、私には殆ど困難である。
キリスト教と類縁のイスラム教徒としては、ヨーロッパや近代の背景にあるキリスト教に敏感であらざるを得ず、そのために、ヨーロッパ近代に反発しているのだ、というのは、分からなくはないが、その程度のことをいうのに、わざわざ近代エジプトの思想家を検討する意義があるのかどうかは、かなり疑問である。というよりも、寧ろ、近代エジプトの思想家は近代とキリスト教とを峻別する方向に動いており、それが巧く行かなかったのは何故か、ということが、もっと丁寧に考察されるべき問題だったのではないだろうか。
結局、著者が本書で何をしようとしたのか、私には分からなかったし、そういうものを打ち出せていないという面で、本書は良い本だとはいえないと私は思う。
ちなみに、本書にはどうも妙にスカスカな印象がある。1頁15行という以外の要因は、よく分からないが。
年配者向けに文字サイズを大きくしたとでもいうのなら分かるが、16行にしたところでそれ程総ページ数が減る訳でもないし、新潮新書みたいに薄いのを売りにしているものもあるのに、何故こうなっているのだろう?