『邪馬台国論争』

佐伯有清 著
岩波新書
ISBN4-00-430990-5
内藤湖南を軸に、主に20世紀前半の邪馬台国研究史を綴った本。
個人的には、そう面白いとも意義があるとも思えなかったが、20世紀前半の邪馬台国研究史だといえば、確かにそういうものではあるので、20世紀前半の邪馬台国研究史が知りたいのならば、読んでみても、という本か。
私としては、昔の研究を知ることに全く意義がないとはいわないが、第一に、現在そのままではとても通用しない古い説を知ったところで余り面白くはないだろうし、第二に、では具体的にどこに意義があるのかと問われて、著者はそのようなテーマは打ち出せてはいないだろうから、そう面白いとも意義がある本だとも思えなかった。
ある程度本格的に邪馬台国の研究を志す人ならばともかく、一般向けには、特にどうということもない本ではないだろうか。
本書の末尾には何故か「魏志倭人伝」が載せられているが、「魏志倭人伝」を見るのに参照する資料等を持っていないような読者は、予め適応外なのではないかと思う。というか、内藤湖南について、「魏志倭人伝」のテキストクリティークを始めたと高く評価しているのに、その本の末尾に、本文だけをぽんと置いてしまうというのは、どうなのだろう(著者は既に故人なので、編集者が勝手に置いたのかもしれないが)。
タイトルには論争と付けられているが、最後の方の三角縁神獣鏡の話以外は、余り論争としての楽しみもないと思う。
と、いうことで、結局、中・上級者で、20世紀前半の邪馬台国研究史が知りたい、という人向けの本。それ以外の人に、特に、という本ではないだろう。
以下メモ。
・久米邦武は、「魏志倭人伝」の邪馬台国への行程記事の内、奴国より先のものは放射状に奴国からの行程が記されたものだと解釈した。
卑弥呼倭迹迹日百襲姫命に、卑弥呼の墓を箸墓古墳に比定した笠井新也は、長女の名を卑彌子、長男の名を倭人と付けている。
・末松保和は、『太平御覧』に引用されている『魏志』が「於投馬国」と作ってあるのを重視して、その音から、投馬国を出雲に比定した。