『八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学』

佐藤卓己
ちくま新書
ISBN4-480-06244-0
8月15日という終戦記念日をメディアがどのように扱ってきたか、が書かれた本。
内容的、形式的には、新聞、ラジオ、歴史教科書というメディアが、終戦記念日をどのように扱ってきたか、ということが主として考察されたもので、全体のモチーフとしては、8月15日を終戦記念日とする曖昧な歴史認識を批判する、ということが、多分あったのだろうが、それが一冊のテーマとまでは高められておらず、総体的な統一感はない。
個々の部分には面白い指摘もいくつかあったが、ややまとまりを欠き、一冊の本として成功しているとまではいえない本か。
面白くない訳ではないが、積極的に薦める程、良くもない、という微妙な出来で、判断に悩む本ではある。それでも良ければ、読んでみても、というところだろう。
以下、メモ。
・日本において、太平洋戦争の終結した日が降伏文書に調印した9月2日とされていない背景には、降伏を隠蔽忘却する心理が働いたことがあるのだろう。
・9月2日はアメリカ主導で式典が行われた日付であり、イギリスでは8月15日を基準にして戦勝式を行う。日本でも、独立後に、8月15日を記念日とする習慣が広まった。
玉音放送には、祭祀における天皇(司祭)の祝詞によって世の中が変わるのだ、という古層信仰の形が潜んでいる。
・元々月遅れのお盆であった8月15日には、既に終戦以前において、戦没者を追悼する行事があった。
・韓国の高校生の半分以上は、日本の正式国名がまだ大日本帝国だと認識しているらしい。
(しかし、敗戦したのだから帝国という文字はなくなるだろう、という判断も、皇帝たる天皇は引き続きいるのだから帝国のままだろう、という判断も、どちらも十分に常識的だと私には思える)