『DNA複製の謎に迫る 正確さといい加減さが共存する不思議ワールド』

武村政春
講談社ブルーバックス
ISBN4-06-257477-2
DNAの複製を行うDNAポリメラーゼについて書かれた本。
大体のところは、DNAポリメラーゼがどのようにしてDNAを複製するのか、ということが書かれた本だと考えておけば、まず間違いがない。DNAポリメラーゼの概説本。サブタイトルにあるようなことが、モチーフとしてはあったみたいだが、この点は私には余りよく分からなかった。
個人的には、テロメアが何故細胞分裂の度に短くなるのか、が分かって面白かったし、それだけで本書は十分に買って良かったと思えるので、基本的には悪くない本だと思う。
ただし、余り強くはお薦めにできないような要素が、2点ある。
一つは、結構ごちゃごちゃとして分かり難い箇所があること。ラギング鎖の辺りとか。特に図4−2は、一つの図で二つ以上の事柄を説明しようとしても巧くいかない、という失敗の見本例のようだ。
もう一つは、現時点ではまだはっきりと分かっていなくて仮説が提唱されている段階、という話がやや多すぎるような気がする。ラギング鎖はDNAポリメラーゼδが合成し、リーディング鎖はDNAポリメラーゼεが合成するのではないか、とか。自然科学分野は仕方がないといえば仕方がないとはいえ、それにしても、という感じがするのだが、どうなのだろう。
しかし逆にいえば、それだけホットな話題を扱っている、という解釈ができるかもしれないし、私としては満足したので、興味があれば読んでみて良い本だ、としておきたい。
以下、メモ。
・MCMがDNA二本鎖を分離した後、DNAポリメラーゼαが、DNAの合成開始点にRNAプライマーを合成して、DNAの複製を開始する。DNAポリメラーゼαは持続性が短く、すぐにDNAポリメラーゼδやDNAポリメラーゼεに交代する。
・DNAポリメラーゼδとDNAポリメラーゼεとは、エクソヌクレアーゼという機能を持っていて、間違った塩基を合成した時にこれを削除できる(ヒトのDNAポリメラーゼαには、エクソヌクレアーゼは付いていない)。
・作られたDNA鎖は、暫く経つとメチル化される。塩基のミスマッチが残っている場合には、メチル化されている方のDNAを正しいものと判断して、修復がなされる。
・紫外線や化学物質によってDNAが損傷を受けている場合、前述のDNAポリメラーゼでは複製ができず、DNAポリメラーゼη、DNAポリメラーゼι、DNAポリメラーゼκという特殊な損傷乗り越え型DNAポリメラーゼが複製を行う。DNAポリメラーゼの仲間であるRev1は、塩基が欠落している時に、強制的にCをペアリングさせる。
・すべてのDNAポリメラーゼはDNAの向きに対して同一方向にしか複製ができない。合成開始点から末端まで、DNAポリメラーゼが連続して合成できる向きのDNA鎖を、リーディング鎖、その反対方向のDNA鎖をラギング鎖という。リーディング鎖では分離した所から順にDNA合成が行われれば良いが、ラギング鎖では、MCMが分離している部分よりある程度先の場所から(分離点に向かって)DNAの合成が行われ、これが繰り返される。
・DNAポリメラーゼは、DNAや、DNAポリメラーゼαの場合に自身が作ったRNAプライマーという足場がないと、DNAを複製していくことができない。DNAの末端部(テロメア領域)において、リーディング鎖では最後まで複製ができるものの、ラギング鎖では、一番最後に付いたRNAプライマーの部分が、それより向こう側にDNAが存在しないために、DNAの複製をすることができない。最後まで完全には複製できないため、DNAは、複製の前後で、テロメアが短くなっている。
・テロメラーゼは、CAAUCCCAAUCという配列のRNAとタンパク質が結合した分子で、このRNAを使って、TTAGGGというテロメア・リピートを作っていく。