『ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか』

シュロモー・サンド 著/高橋武智 監訳/佐々木康之・木村高子 訳
ちくま学芸文庫
ISBN978-4-480-09799-6
現在ユダヤ人とされる人々が、モーセに率いられたりダビデの王国の住民であったりした古代ユダヤ人の直系の子孫である、という神話に反駁し、その神話に基づくイスラエルナショナリズムを批判した本。
原著はイスラエルの読者を対象にヘブライ語で書かれているので(本書はフランス語版からの重訳)、本書には分かりにくいところや読みにくいところがテンコ盛りであり、現代日本の読者がどうしてもという本ではほぼないと思うが、いろいろと興味深くはあるので、そうしたものでよければ、という本か。
イスラエルの多分リベラル系知識人の少なくとも一人がこういう見方をしている、というだけでも。(ソ連を批判したアーサー・ケストラーに同情的なので、著者は左翼というほどではないのだろうと思う)
興味があるならば読んでみる価値はあると思う。
日本の読者に合っていないというような欠点は、しょうがないといえばしょうがない。著者はおそらく、聖書を開いたこともないなどという読者は想像もしていないだろうし。
ただし、ユダヤ人に改宗者がいっぱいいた、という話は、初期キリスト教の本なんかには出てくるので、それを知らない人は本書も読みにくいだろうというのは、難点ではある。
そうしたものでよければ、という本だろう。

以下メモ。
古代ローマユダヤ教キリスト教が広まったのは、一夫一婦制の厳格な家族倫理が好まれたからだろう。
・ローマに対するいくつかの反乱の後も、アラブ人による征服の後も、多くのユダヤ人が住む土地から追放された、というようなことはない。