『功利主義入門 はじめての倫理学』

児玉聡 著
ちくま新書
ISBN978-4-480-06671-8
功利主義を紹介した本。
入門書というよりは紹介した本だが、いろいろ考えられていて思弁的なので面白くはあった。こういうものを読もうという人は思弁的なものが好きだろうし、興味があれば読んでみてもよい本か。
ただし、いろいろ考えられているとはいっても、ショウペンハウエルがいうところの他人の思考にすぎないような気はする。
例えば、最大多数の最大幸福を目指す功利主義は特別な一人の価値というものを認めないが、現代の功利主義者はたいてい家族の重要性を認めている、と著者が書くとき、その論拠は何か、どのような場合にどのような基準でどの程度認めるのか、ということは何も書かれていない。
本書では、それ以外にも功利主義に対する様々な修正についてほとんど基準が示されることはないが、それでは入門ではなく紹介であり、本書に基づいて何かを判断することはできないのではないだろうか。
それこそ、どんぶり勘定でいいならどんな不公正も許されることになるだろう。
あくまで紹介でよければというところ。
そうしたものでよければ読んでみても、という本だろう。