『近現代日本史と歴史学 書き替えられてきた過去』

成田龍一
中公新書
ISBN978-4-12-102150-2
マルクス主義史観的な立ち位置から、戦後における近代日本史研究の動向を研究対象の時代ごとにいくつか分けてまとめた学説史。
相当に断片的な紹介で、面白いとはいえず、分かりにくくもある上に、マルクス主義的な偏りもあるだろうから、個人的にはお薦めはしない。
マルクス主義史観というのが、主要な研究にマルクス主義史観に基づいたものが多かったせいなのか、マルクス主義史観的な研究を選んで集めたせいなのか、マルクス主義史観的な解釈を施しているからなのかは分からないが。多分どれもいくぶんかずつ当てはまるのだろうと思う。
歴史の学説史において前の時代には当然の前提とされたものが後の時代に歴史化され相対化されていくという話には面白いものがあり、そのおかげで最後まで読むことはできたが、マルクス主義史観という構造が相対化されないのは困ったものではある。
説明の分量も少なく、多分ライターを使っていない硬質な日本語で、共産党を前衛党と書いたりするような微妙な陰影もあって、分かりにくくもある。
寄生地主=商業資本による農村の支配体制が確立しつつある先進地域と、寄生地主制へ転化した後進地域という分類では、私には何を軸にしているのか全然理解できない。
労農派は名前しか出てこないし、講座派の二段階革命ですべてが分かる人向きか。
そういう人にはいいのかもしれないが、私としては本書を薦めかねる。

以下メモ。
・半封建的な遺制の多く残った日本近代は、西洋近代を絶対視する視点からは日本的特殊性となるが、近代を歴史化すれば、近代がもたらした一つの反応ということになる。