『黄金比はすべてを美しくするか? 最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語』

マリオ・リヴィオ 著/斉藤隆央 訳
ハヤカワ文庫NF
ISBN978-4-15-050377-2
黄金比に関して書かれた数学読本。
全体に、特にどうということはない数学読み物か。
ところどころ分かりにくい箇所があること、説明が読者を驚かせようとしすぎてやや数学神秘主義に偏っている感じがすること、から、個人的には特別な本とまでは思えなかった。
黄金比の二乗は黄金比に1を足したものに等しくなる、と著者は読者を驚かせているが、黄金比はその定義上、方程式 x^2-x-1=0 の(正の)解になるのだから、移項すれば、x^2=x+1、つまり単に当然のことに過ぎないわけではある。
(同様に 1/x=x-1 となるので、黄金比の逆数は黄金比から1を引いたものに等しい。黄金比を 1.6180339887 とすると、黄金比の二乗は 2.6180339887、黄金比の逆数は 0.6180339887 となる)
ベンフォードの法則についての説明(自然界に出てくる多くの数値を集めると、その数字がある一定の法則に従って分布すること。最初の一桁なら、1が多く9が少ない。1から9までが九分の一ずつ現れるのではない)も、合理的な説明は何もなく、数学神秘主義に堕していると思う。
(例えば、新聞の株式欄ですべての株価の最初の一桁を拾うと、1がもっとも多く出てくる可能性が高いだろうが、これは、株価が九百円台になるには株価百円台の時期から成長しなくてはならないから、倍に成長する速度が同じだとすると、1になる確率は9よりも大きくなる、と説明すれば特別に不可思議なことでもない)
これらのことから、個人的には特にという本ではない。
好きな人にはこれでもよいのだろうから、数学読み物としてはありがちな数学読み物か。
そうしたものでよければ読んでみても、という本だろう。

以下メモ。
・銀河の腕の形が長続きするのは、その部分に物質が集中しているからではなく、密度波によって新しい星が生まれていくパターンを示している(若い星は明るい)からである。
・多くの建築物や絵画で黄金比が使われている、という話は、実際にはこじつけであることが多い。