『ことばと思考』

今井むつみ 著
岩波新書
ISBN978-4-00-431278-9
人間の思考と言語とのかかわりについて論じた本。
要するに、言語がその人の認識や世界観を規定するというサピア=ウォーフ仮説についての心理学的な検証が書かれたもので、結論的には、言語がその人の認識に影響を与えるのは疑いないが、どのようにして、そしてどれだけ規定しているのかは、詳らかではない、というところか。
この結論から分かるように、現時点のまとめといえばそうなのかもしれないが、一冊の本として興味深い内容には、あまりなっていないと思う。中途半端、といったら研究者は怒るのかもしれないけど、ぶっちゃけそうだよね、という感じ。
まったく面白くないとはいわないし、現時点でのまとめではあるのだろうから、それでも良ければ、というところか。後は、そもそも言語と思考に関係があるとは思ってもいなかった人とか。
赤ちゃんの認識の発達における言語の役割り、みたいな部分は面白かったので、そっちを主軸にすれば良かったのにと思うが、それはそれで他に書いているということなのだろうか。
言語と思考とのかかわりという点では、現時点のまとめではあるとしても、興味深い結論があるのではなかった。
それでも良ければ、というところだが、特に薦めるような本でもないだろう。

以下メモ。
・赤ちゃんに、人が線路を「わたる」シーンを見せた後、道路を「わたる」シーンとテニスコートを「横切る」シーンを見せると、これらの三つのシーンをすべて go across という同じ動詞で表現するアメリカの赤ちゃんは、19ヶ月になると、場所の性格が変わったテニスコートの方を特に好んでみることはなくなった。生後19ヶ月までの間に、自分の母語で重要ではない情報に注意を向けることをやめてしまう。
・脳の中の別々の領域で処理される認識を統合するのに、ヒトは言葉を使っているらしい。
 長方形の囲いの一隅に餌を置いてやると、ネズミはこれを覚える。続いてネズミに方向を分からなくさせると、ネズミは対角線上にある二つの隅のどちらに餌があるのか分からなくなる。ヒトでもこの条件ならば分かりようがない。しかし、長方形の一辺に色を塗ってやっても、ネズミは二つの隅のどちらか分からない。ヒトの赤ちゃんも同様であるが、「左」「右」という言葉を正しく使えるようになった子どもは、正しい隅を探索できる。大人に対して言語を使う他の処理を強制的にやらせながらこの実験を行うと、大人でも正しい隅が分からなくなる。