『水とはなにか ミクロに見たそのふるまい』

上平恒 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-257646-8
水の性質に関して書かれた本。
水の物理的化学的性質に関してあれこれとまとまって書かれているので、内容そのものは興味深いが、ただし、説明は、分かりやすくもないし、全体に眠い感じだと思う。
内容は興味深いと思うので、ある程度の基礎知識があって、説明が多少たるくても良いという人向き。
水素結合とかファン・デル・ワールス力とかエントロピーとかが分かりにくいのは、初心者お断りというのならそれはそれで一つの選択ではあろうが、例えば本書の内容そのものである疎水性水和と気体水和物の関係も分かりにくいので、全体に説明のキレがないのだと思う。分子の回転運動の速さを、分子がその重心の周りに1ラジアン回転するのに要する時間で表す、と書いている直後に、純水中の水分子は10^-12秒の間に約二回でたらめな回転運動をしている、と書くのはどうなんだろうとか(同じ時間の間に、水分子はその直径分移動するので、記述そのものはそれと一緒くたになっているだけだが、2.8オングストローム進むと書いているだけで水分子の直径がそこに書いてないのはどうなのかとか)。
全体的に、はっきりと理解しやすい説明ではない。
ある程度知識のある人なら、この説明でも別になんということはないのかもしれないが、私としては少し薦めにくいものはある。
それでも良ければ、というところだろう。

以下メモ。
・純水を作ると、蒸留等によって同位体組成が変わってしまうので、純水の密度等を細かく精確に知ることは難しい。
エタノールなどを水に溶かすと、疎水基の部分が水分子の間隙に入るので、体積は混ぜる前の体積よりも少なくなる。純水中なら存在する空孔が疎水基によって埋まるので、疎水基の周りの水分子の熱運動は、邪魔なものがある分、遅くなる(疎水性水和)。
・熱運動が遅くなるとエントロピーが減少するので、炭化水素が水に溶ける時には、発熱する。
・疎水性の気体を水に溶かすと、気体分子の周囲に多くの水分子を捕らえることができる(メタンハイドレート等)。
・疎水基のある部分はエントロピーが小さいので、疎水基同士は、水の中でばらばらになるよりも、まとまった方がエントロピー的に有利である。タンパク質が立体構造を取る時には、このようにして疎水基同士が集まることも働いている。