『「愛宕」奮戦記 旗艦乗務員の見たソロモン海戦』

小板橋孝策 著
光人社NF文庫
ISBN978-4-7698-2560-9
太平洋戦争開戦からソロモン海戦までの、重巡愛宕」の戦記。
ある艦橋乗務員の記録を元にソロモン海戦までの重巡愛宕」の軌跡を描いたもので、海軍の特性もあってか戦記としてはやや特異な印象を受け、私としては広く薦めるような本ではなかったが、戦記といえばこれで別に一つの戦記なので、こういうので良いという人なら読んでみても、という本か。
戦記として特殊だというのは、殆ど常に正面に敵を抱えている陸軍と違って、戦闘そのものが少ないこと。一人の乗務員の記録を元に別の人が書いているせいか、記されている内容が、当時のリアルタイムの情報なのか、後付けによるものなのか、判別できないこと(当時のリアルタイムのもの、という前提で、書かれてはいるのだろうと思う)。餓島の悲惨さを知っている人は、何をのんびりしているのか、という気にもなるだろうし、大局的にはほぼ痛み分け、戦略的には日本が不利な消耗戦に引きずり込まれただけのソロモン海戦を、勝った勝ったと無邪気に喜んでいるのは、結末を知っている人から見ると、別の面白さがあるかもしれないが。
そういう、特殊な楽しみ方をする、特殊な戦記だと思う。一次史料というのはある程度そういうものだろうが、そうすると今度は、記録を残した人とは別の人が書いている、というのが微妙な点になる訳で。
しかし、これで別に一つの戦記ではあるだろうから、予めそうしたもので良いというのなら、特に駄目、という程ではない。
余り薦めるのではないが、特殊な戦記で良ければ、読んでみても、という本だろう。
以下メモ。
ミッドウェー海戦に参加した愛宕の乗組員に対して、帰還後、封書を禁止してハガキにする命令が出された(ミッドウェー敗北の情報が漏れるのを恐れたのだろうか)。
・泊地においてはしばしば、飛行甲板で映画の上映が行われた。