『ハプスブルク帝国の情報メディア革命 近代郵便制度の誕生』

菊池良生
集英社新書
ISBN978-4-08-720425-4
ヨーロッパの近代郵便史に関して書かれた本。
タイトル・サブタイトルを見る限りその成立がメインになっているかのようだが、実際には成立前後の時代の歴史もやや広く追った本で、近代郵便小史、とでも考えておくのが良い本か。
時代の巾が広い分、テーマ的に中途半端というか、焦点が絞り切れていない印象もあるが、小史と考えるなら、それなりにまとまりもあって面白く読める本だと思う。
近代郵便成立の細かな事情を知るというよりは、近代郵便の大まかな流れを知りたい、という人向け。そうしたもので良ければ、悪い本ではない。
興味があるならば、読んでみても良い本だろう。
以下メモ。
・アケメネス朝ペルシャの駅伝制度に酷似した制度がプトレマイオス朝にあり、カエサルアウグストゥスがそれをローマに持ち込んだ(ローマでは、駅伝によって、公用文書の輸送だけでなく役人の移動も行われた)。そしてルネサンス期のイタリアで、古代ローマの駅伝制度が復活する。
・事業拡大を目指したヴェネチアの有力飛脚問屋のタッシス家と、ブルゴーニュ公国からネーデルランドを引き継いで世界帝国への道を志向し始めたハプスブルク家とが通じ合い、フランツ・フォン・タクシス(ドイツ名)によって近代的な郵便制度が創設された。
・配達人は宿駅が近づくとホルンで到着を知らせ、それを聞いて、次の配達人が準備をし、郵便袋を受け取ったらすぐに出発する。
・近代郵便は民間の需要にも応え、商家の決済が為替で行われるようになった。より速い配達への欲求や定期的な郵便集配日の存在が、近代郵便と近代的時間感覚を共進化させる。郵便の宿駅を利用した旅行も行われるようになった。
・郵便は、増大した需要による収益と通信の監視を狙って、リシュリュー等の手により、国家による独占への道を歩んだ。初期の新聞は、郵便網に乗ってきた情報を郵便によって読者に届けたので、郵便独占は間接的な新聞支配だった。
ウェストファリア条約は、一つの正義という普遍主義の終わりを意味している。
フランス革命は、郵便に、信書の秘密と、収益源としてではなく安価な行政サービスとしての郵便、という発想を持ち込んだ。