『女ことばはどこへ消えたか?』

林千草
光文社新書
ISBN978-4-334-03411-5
現在消え去ろうとしているような女言葉に関して、その来歴等が書かれた本。
全体としてのテーマは私にはよく分からなかったが、女言葉に関する雑学本、と考えてそんなに間違いのない本か。
現在消え去ろうとしているような、ということで、その女言葉がまだクリシェではない活力を持っていた時期の、夏目漱石のヒロインにおける使われ方――主として、主人公に対する恋の駆け引き――の分析が、本書の約三分の一を占めるメインの話題であり、私は、夏目漱石の小説は余り読んでいないので、ここの所でヒロインはこういう風に考えてこういう言葉遣いをしたのだ、といわれても、すんなりとは飲み込めなかったし、それが最後まで響いたせいか、本書のテーマもよく飲み込めなかったのではあるが、そういうものが良ければ、読んでみても、という本なのではないだろうか。
私には合わなかったので、別に薦めるのではないが、面白いと思える人はそれなりにはいそうな気のする本。
読んでみたければ読んでみても、というところだろう。
以下メモ。
・兄(あに)、から、あにさま、あにさん、が生まれ、それに御を付けて丁寧な形にしたおあにいさんとなって、お兄いさんから、にいさん、にいさまが生まれたらしい。
・中世の宮廷では、天皇の聖性をけがさないためにも、俗な面を持つ食べ物等について、一般の言葉とは異なる女房ことばが使われていた。おひや、おかか、お手元、おかず等はそれが現代まで生き残った例。鯉はこもじ、ニンニクはにもじ、空腹のことは、ひだるいから、ひもじ等といった。
・能や歌舞伎が男性の演者のみで成り立った背景には、女性の役を男性が演じても女言葉を使えばそれが女性であると分かったことがあるだろう。